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【そのとき投資】3billionの創業者、クム・チャンウォンと始まりから上場まで共に歩んだ旅路

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【そのとき投資】3billionの創業者、クム・チャンウォンと始まりから上場まで共に歩んだ旅路

@そのとき投資(私はその時、投資することを決めました)では、現役の投資家がなぜこのスタートアップに投資したのかを共有します。

 「知り合いのお兄さんが遺伝子関連のスタートアップを立ち上げたそうだけど、一緒に遊びに行きませんか?」

 2013年のある日、親しい大学院の後輩が私にかけた言葉。私は時々、あの後輩がこの話をしなかったら、私の人生はどう変わっていたのだろうと思うことがある。私の人生に大きな影響を与えた縁がこの一言から始まったからである。当時、私は生物情報学で博士号を取得し、医学部の研究教授を経て、大企業の研究所で新事業のチームを率いていた。そうしつつも、スタートアップ業界で働きたいという漠然とした願望があったため、面白い遺伝子分野のスタートアップがあるという話に興味を持った。

そうしてたどり着いたのが「Geference(ゼファーレンス)」という会社だった。ゲノム(Genome)とリファレンス(Reference)を合わせた、「ゲノム分野の基準となる」という実に野心的な名前の会社だった。駅三(ヨクサム)の路地裏の怪しげな場所にあるGeferenceのオフィスは、派手な会社名とは違い、とてもこじんまりとしていた。ワンフロアの小さなオフィスに3人のチームメンバー、それが全てだった。規模は小さかったが、何か重要な事が行われているという気がした。


初期のGeferenceオフィスの様子 /チェ・ユンソプ代表提供

そんな気持ちになった大きな理由は、代表だ。大学院の後輩が話していた、あの「知り合いのお兄さん」だった。黒い角型メガネに細身で背の高い、頑固な研究者の雰囲気が漂う人だった。KAISTで生物情報学で修士を取得し、米国USCで博士課程を履修している最中に、遺伝子分野に大きなチャンスが来ることを感じ、起業の前線に飛び込んだという。遺伝子市場の将来を確信に満ちた言葉で語る代表が印象的だった。代表の名前はクム・チャンウォンだった。

Geferenceは今考えても、いろいろと面白い会社だった。初めて訪問した時、メンバーが3人の共同創業者しかいなかったにもかかわらず、「カルチャーブック」を見せてくれた。偉大な会社は組織文化から違うと、会社が大きくなることを想定して、事前に共同創業者たちが話し合い、コアバリューを明文化しておいたのだという。また、頻繁にテックセミナーを開催していた。10人入るのも窮屈そうな小さなオフィスに人を集めてテックセミナーを開催し、共同創業者たちが直接発表していた。ネットワーキングパーティーを兼ねていたのだが、この席で今でも大切な縁となる人々と出会うことができた。

会社を辞めて切歯腐心の時間から再出発まで

しかし、Geferenceという名前を覚えている人は少ないだろう。起業後3年半以上、誘電体分野で様々な試みを続けていたGeferenceは、事業の突破口を見つけられず(今でいういわゆるPMF(Product Market Fit)を見つけられず)、会社を畳むことにした。その時はまだ2014年だった。遺伝子関連市場が本格的に開花したのはもっと後のことなので、時代を先取りしすぎたのかもしれない。幸い、外部からの投資を受けていなかったため、Geferenceの廃業手続きに大きな問題はなかったと、代表は後に振り返っている。

その後、クム・チャンウォン代表は起業家としての翼を少したたみ、遺伝子配列分析分野の世界的な企業であり、上場企業でもあるMACROGEN(マクロジェン)にチームリーダーとして入社する。その後、1年7ヶ月間、クム・チャンウォン「チーム長」はMACROGEN臨床遺伝学チームを率いて様々な臨床遺伝子関連製品を開発し、事業化を主導した。

この時期はクム・チャンウォン代表にとっては、切歯腐心の期間だっただろう。会社経験のない研究者出身の初心者起業家にとって、中堅企業でリーダーシップの経験を積むことは、経営者として大きな学びの機会であり、また、Geferenceの失敗について時間をかけて様々な面で復習する期間でもあっただろう。また、様々な新製品を企画・開発する過程で、自然と次の起業アイテムを考えることができる時期でもあった。筆者はこの当時もキム代表ともよく連絡を取り合い、構想しているアイデアについて熱い話を聞いていた。そしてその間、遺伝子市場は少しずつ熟していった。時代を先取りしすぎた起業家が、遺伝子市場で本格的なビジネスのチャンスを再びつかめる時期が近づいていたのだ。

一方、その間、筆者にも大きな変化があった。大企業のチームリーダーから、再び大学病院の研究教授となり、ついに独立したのである。デジタルヘルスケアという分野を初期から韓国に紹介し、本を出し(それなりにベストセラーになった)、講義をし、コンサルティングをしながら、業界に私の名前が少しずつ知られるようになり、関連スタートアップに少しずつエンジェル投資をしているうちに、投資の機会が多くなった。そのような経験が積み重なり、他の専門家と一緒に投資会社を設立することにしたのだ。法人名は「デジタルヘルスケアパートナーズ」と決め、(法人名が長すぎるため)普段は略してDHPと呼ぶことにした。

筆者がDHPを創業して数ヶ月経っていない2016年10月。ついにクム・チャンウォン代表は2度目の起業を決意する。MACROGENから遺伝子事業をスピンオフすることを決めたのである。遺伝子解析を通じて希少疾患を診断するコンセプトの会社だった。何年もの間、クム・チャンウォン代表の歩みを見守ってきた筆者は、事業アイテムを詳しく聞くこともなく(心の中では)投資することを決意した。たぶんクム・チャンウォン代表がチキン屋をやるとしても投資すると言っただろう。そのように社名決まっていないこの新興スタートアップは、DHPの最初の投資ポートフォリオに決定した。

この新会社の名前はその後に決まった。クム代表が会社名の候補いくつかから、関係者にGoogleフォームで投票を募った。筆者も投票したのだが、実は候補の中に「これだ!」と思う名前が一つもなかった。数日後、会社名が決まったという連絡があった。候補にはなかった名前だった。「3billion(スリービリオン)人間のDNAの全塩基対の数が約30億個なので、「30億(3billion)」と名付けたのである。名前を聞いた瞬間に、いい名前を付けたなと思った。覚えやすく、呼びやすい。外国人にも。

もしこの記事を読んでいる読者がスタートアップシーン、特にデジタルヘルスケアや医療分野に興味のある方であれば、この「3billion」という名前を聞けば、追加の説明はあまり必要ないかもしれない。今ではすっかり有名な会社になったからだ。スタートアップシーンにいない方には、この会社の成果について、7月末にKOSDAQ上場予備審査を通過したということで紹介に代えることができるだろう。 

希少疾患市場が小さい?世界15人に1人が希少疾患

3billionについては、最近(特に上場予備審査通過後)多くの記事やインタビューで取り上げられているので、この記事では簡単に説明する。要約すると、3billionは人工知能で遺伝子情報を分析し、7,000種類以上の希少疾患を診断するサービスを提供する会社である。

NGS(次世代塩基配列解析技術)が発展していた初期の頃は、遺伝子の配列をどうすればより速く、より安価に分析できるかがポイントだった。この過程で、遺伝情報を生産する機器を作るIllumina(イルミナ)などの企業が大きく成長した。しかし、より重要なのは、このように安価かつ迅速に生産された遺伝子情報を何に使うかである。クム・チャンウォン代表は、その答えを「希少疾患の診断」に求めた。

希少疾患は、2,000人に1人以下の確率で発生する病気と定義される。そうすると、患者の数が少なすぎないか(つまり、市場の規模が小さすぎないか)という質問が出るかもしれない。 (実際、3billionの初期に多くのVCがこのような質問をした。) しかし、希少疾患は10,000種類以上存在する。一種のロングテール市場のようなものである。これをすべて合わせると、全世界の15人に1人が希少疾患患者であるため、非常に大きな市場である。(参考までに、2019年基準、糖尿病患者は全世界の11人に1人の割合である)

さらに、希少疾患の患者は、疾患の性質上、適切な診断を受けることが非常に困難である。考えられる病気が非常に多様であるため、いちいちすべての検査を行うことができないためだ。このため、患者はいわゆる「診断放浪」に陥る。病名もわからない病気を診断してもらうために、複数の病院を転々とするのである。症状発症後、診断を受けるまで、希少疾患患者は平均6年間、17の病院を渡り歩き、平均2~3億ウォン(約2100~3100万円)という費用を使う。まさに、顧客のいわゆる「ペインポイント(pain point)」が大きいのである。

特に希少疾患の80%が遺伝性疾患である。そうそう、全ゲノム(whole genome)解析、つまり人間の遺伝情報をすべて読み取る解析をすれば、その患者がどのような希少疾患を患っているのかが簡単にわかるのでは?問題がそれほど単純であれば、高度な人工知能技術も、3billionのような会社も必要なかったはずだ。希少疾患患者のゲノムを分析すると、解釈が難しい、知らない遺伝子変異がたくさん出てくる。通常、10万個以上の変異が発生するため、研究者がそれらをすべて一つ一つ調べることは不可能である。さらに、疾患が特定されないため、変異解釈とともに患者の症状と疾患の相関性を検定することが必要である。

ここに3billionが開発した人工知能ベースの希少疾患診断モデルが活用される。3billionは2021年に3Cnetという遺伝子変異の病原性を解釈するモデルを発表し、これをもとに2024年には3ASCという病気の原因となる遺伝子変異を発掘する人工知能を発表した。これにより、人間の介入なしに、10万個の遺伝子変異を5分以内に解釈することができ、99.4%の精度で病原性を解釈することができる。特に、上位5つの変異の中に原因遺伝変異が含まれる確率は98%に達する。つまり、医療陣が10万個の遺伝子変異ではなく、5個だけ見ても98%の確率で希少疾患を診断できるということだ。

 /DHP提供

AI基盤の希少疾病診断技術、世界最高レベル

3billionの希少疾患診断技術は世界最高水準だ。2022年には、米国国立衛生院(NIH)の後援で開催される、人工知能希少疾患診断コンテストCAGI6で3billionが優勝した。グローバルで参加した合計50チームと競争した結果さった。特に、大会主管機関が今後の論文発表のためにまとめた内容を見ると、GoogleDeepMind(ディープマインドの「Alphamissense(アルフェミセンス)」と同等以上の性能を示した。それだけでなく、2023年には、グローバル製薬会社Roche(ロシュ)とグローバル希少疾病団体が開催した人工知能希少疾病競演大会Xcelerate RAREでも、グローバルの24チームと競争して3billionが優勝した。

単に優れた技術力だけでなく、3billionはグローバル市場で良好な事業成果を示している。特にここ数年、売り上げが爆発的に増加しました。2020年には2,500万ウォン(約270万円)に過ぎなかった売上が毎年増加し、2023年には27億ウォン(約3億円)で100倍以上成長した。2024年上半期も2023年比3倍の売上高を記録し、成長が続いている。さらに、全体の売上のうち70%程度が海外で発生しており、現在60カ国以上で事業を展開している。

年内に予定されているKOSDAQ市場への上場は、3billionの新たな挑戦が始まることを意味する。上場予備審査が通過した後、非上場市場の株主に送る最後の株主書簡で、クム・チャンウォン代表は非上場会社として3billionはPhase 1を終え、上場会社としてPhase 2のより大きな成長の挑戦を始めると言及した。診断市場の特性上、売上は着実に増加し、また、希少疾患診断に対する競争力を基に、希少疾患治療のためのターゲット及び新薬候補物質の発掘などで事業を拡大していくだろう。

一人の投資家として、3billionの上場は感慨深いものがある。この記事を書くために、2013年からのクム・チャンウォン代表と3billionの記憶を辿ってみると、あまりにも多くのことがあった。駅三(ヨクサム)の片隅の路地裏のGeferenceオフィスを初めて訪れたときから、3billionが最初に居を構えた宣陵(ソンヌン)のD.CAMPオフィス。そして、シリーズAの資金調達時に会社が大きな危機を迎え、共同創業者3人のうち1人が離脱し、クム・チャンウォン代表とキム・セファン理事の2人だけが残された祠堂(サダン)のOrangeFarm(オレンジファーム)のオフィス。文字通り喪家のような雰囲気の中、一緒に頭を悩ませながら対策を話し合った記憶もある。

その会社が今では累積400億ウォン(約40億円)を超える資金調達を行い、80人余りの従業員が勤務し、60ヶ国の400以上の医療機関にサービスを提供する、KOSDAQ市場上場を目前に控えた会社に成長した。3billionが成長してきた道のりは、筆者が投資家として成長してきた道のりでもあった。そのような旅路を共に歩んでこられたことに感謝しかない。3billionが上場後もPhase 2を成功裏に切り開いていき、より多くの希少疾患患者さんに新しい人生をプレゼントできることを心から願ってやまない。

3billionの2020年株主総会を終えて(前列中央が金昌元代表、後列右が筆者) /DHP提供


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