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キム・ジンファン 技術経営学博士 | 特別寄稿

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キム・ジンファン 技術経営学博士 | 特別寄稿

国家情報院が使用する韓国国産セキュリティプログラムがあれば?

ちょい事情通の記者の前置き:「第三者」のアドバイスは必ずしも正しいとは限りません。厳しい苦言のすべてが、ためになるわけではありません。「結果」を確認した後になって、「ほら、だから、あの時の判断は間違っていた」というようなアドバイスも少なくないためです。現場のスタートアップ起業家ほど切実な人は他にいません。だからといって「厳しい言葉」を無視していいというわけでもありません。厳しい言葉の正しい聞き方は、話を切らずに最後まで聞くこと、そして自分自身に問い直すこと。

今回のレターは、スタートアップを愛する「第三者」であるキム・ジンファン技術経営学博士の寄稿です。前回の寄稿「CESイノベーション賞の裏側」はスタートアップ業界で話題になりました。キム首席は、「過去2回の記事がやや批判的な内容を含んでいたとするなら、次は代案を話すタイミングではないかと考えました。だから送ります。」と付け加えました。

NASAが手を差し伸べて育てたSpaceX

2002年にイーロン・マスクが設立したSpaceX(スペースX)は、設立後数年間はこれといった売り上げがなかった。民間人のための宇宙探査市場自体が存在しなかったからだ。そんな中、2008年にアメリカ航空宇宙局NASAが手を差し伸べた。COTS(Commercial Orbital Transportation Services)プロジェクトを通じ、2億8700万ドル規模の契約をSpaceXと締結したのだ。国家機関から巨額の財政支援を受けたSpaceXは、ファルコン9ロケットの開発を加速させることができた。2023年末のSpaceXの企業価値は230兆ウォン(訳25.8兆円)に達した。

2003年に設立されたデータ分析企業Palantir Technologies(パランティアテクノロジーズ)は、顧客を見つ出すのに苦労した。この時、米国中央情報局(CIA)傘下の投資会社In-QTelが登場し、200万ドルを投資した。CIAは初期顧客となり、その後、国防総省、FBIなどの政府省庁が次々とPalantirの顧客となった。Politico(ポリティコ)の報告によると、2009~2016年の間にPalantirが米国連邦政府から受注した売上は少なくとも12億ドルであることが分かった。米国の主要省庁が顧客となり、企業は急速に成長した。Palantirは現在、ニューヨーク証券取引所に上場しており、企業価値は約70兆ウォン(約7.8兆円)である。

上記の2つの事例は、政府をはじめとする公共領域が初期技術企業にどれほど大きな役割を果たすことができるかを示している。すでに各国政府は様々な方法でスタートアップの研究開発と技術事業化に莫大な資金を支援している。韓国の場合、2022年の総研究開発費は112兆ウォン(約12.5兆円)で、米国に次いでGDP比で世界2位を記録した。このうち、公共研究機関による研究開発費は13兆ウォン(約1.5兆円)程度だった。技術移転の場合も、移転収入、移転率、取引件数などで過去に比べ大きな伸びを示した。

人類最大の宇宙船、スターシップの試験打ち上げの様子 /SpaceX

誰がスタートアップの製品を購入してくれるのか

問題は開発完了後、「果たして誰がスタートアップの製品を購入してくれるのか」である。産業通商資源部の資料によると、技術供給者が認識している主な障害要因の2位が「需要発掘の難しさ」だった。新しい市場を作る仕事であればあるほど、製品が新しければ新しいほど、需要者発掘の難易度は高くなる。米国の市場調査会社CB Insightsが明らかにしたスタートアップが破綻する原因1位「市場が望まない製品」と同じ文脈である。スタートアップ起業家の期待とは異なり、優れた技術が消費者の隠れたニーズを刺激して新たな需要と市場を創出する可能性は非常に低い。

また、技術ベースのビジネスは、初期顧客が誰であるかが市場拡大に非常に重要な役割を果たす。ITスタートアップがSAMSUNG(サムスン電子)をはじめとする大企業に、ヘルスケアスタートアップがソウル峨山(アサン)病院をはじめとするビッグ5の病院にこだわる理由である。ユニコーンクラスの企業に成長した国内A社の場合、SAMSUNG(サムスン電子)を最初の顧客として迎え、高速成長の足場を築いたと言われている。一方、一定期間内に信頼できる顧客を確保できなければ、市場で無価値な技術に転落する。ほとんどの技術ベースのスタートアップが直面している現実である。

韓国政府が定めた超格別スタートアップ10大分野のうち、「宇宙航空、次世代原発」などは、国家機関以外の民間企業の購買が難しい領域である。エコ、サイバーセキュリティ、量子技術もまだ世界的に民間市場が熟していない状況である。したがって、公共での研究開発及び事業化を超えて購買調達まで考慮した計画を策定していてこそ、ディープテックスタートアップを通じた起業エコシステムの高度化が可能であるという結論となる。

調達庁が発行した「2022公共調達統計年報」によると、韓国の公共調達規模は196兆ウォン(約22兆円)に達する。2022年予算607兆ウォン(約68.1兆円)の32%程度である。国内総生産(GDP)の9.1%に達する規模であり、毎年比重が高まり続けている。起業・ベンチャー企業の成長基盤を構築するという趣旨で2016年10月に作られた調達庁「벤처나라(ベンチャーナラ)」は、毎年急速に成長し、2022年には1,591億ウォン(約178.5億円)の売上を記録した。

米国上場企業であるパランティアは、CIAの投資と支援を受けて急成長した。Palantirという名は、『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する魔法使いサルーマンが敵を監視するために使う石に由来する。/ニューラインシネマ

公共調達の成長有力分野はSaaS

しかし、まだまだ先は長い。ベンチャーナラで取引された上位5品目は、人工芝、交通信号灯、水漏れ検知器、充電装置、遠隔自動検針システムだった。たまに技術ベースの商品が目に入りもするが、全体的に見ると、ディープテクノロジースタートアップの製品サービスとはある程度離れたアイテムである。オンラインショッピングモールという形で構築されているため、関与度が高くない一般的な工業製品中心で取引されるのは当然のことかもしれない。ただ、調達庁は継続的にアイテムを拡大しており、先端技術スタートアップを受け入れるための努力を多角的に行っているため、問題はすぐに解消されるものと期待している。

個人的に判断すると、公共調達を通じた成長が有力な領域はIT SaaS(Software as a Service)産業である。グローバル市場調査機関Gartner(ガートナー)によると、SaaS市場は毎年11%以上の成長を記録し、2030年には全世界で3,000億ドルの市場を形成すると予想される。しかし、韓国国内で売上50億ウォン(約5.6億円)を超えるSaaSスタートアップは数えるほどしかないのが現実だ。実績のある外国産製品の好み、システム自体の構築慣行、複雑な技術検証システムなど、大きな障壁が存在するためである。2022年、公共分野ICT分野の用役に投入された3兆ウォン(約3300億円)と情報通信工事費1.8兆ウォン(約2000億円)、情報通信物品0.8兆ウォン(約900億円)を合わせると5.6兆ウォン(約6200億円)に達するが、もしこの金額の一部がクラウド、SaaS、AI、協業ツール、セキュリティ分野に流れれば、IT SaaSユニコーンスタートアップの登場も夢ではないだろう。上記のような新技術の導入は、公共情報システムの先進化、行政の効率化にも大きく役立つと期待される。

幸いなことに、あちこちで変化の風が吹いている。国家情報院は2017年のKT Cloud(KTクラウド)を皮切りに、毎年、国家及び公共機関で導入可能な民間クラウドサービスのリストを公開してきた。一言で言えば、国情院の認証を通じてIT企業の公共市場販路を保証したのだ。中小ベンチャー企業部の場合、「購買条件付き新製品開発事業」を通じて需要先が確保された企業に対して技術開発資金を支援している。特筆すべきは、需要先が公共である場合で、最大支援金額が一般課題の2倍の10億ウォン(約1.1億円)に達するということである。公共の立場からも、スタートアップの先端技術商品を購入する十分な動機が生まれることになる。国防と原子力の場合も、起業コンテスト開催、民間への技術移転、技術事業化支援などを通じて様々な支援事業を展開しており、足が速い一部の企業は国防電子調達システムを通じて有意義な売上を上げている。

国家情報院が使用する国内セキュリティプログラムが世界市場を席巻し、空軍が購入した戦闘機部品が海外に輸出され、韓国型小型モジュール型原子炉を開発したスタートアップがニューヨーク証券取引所に上場することは無理な想像だろうか?公共調達購買を通じて、韓国の起業エコシステムが一段とアップグレードされる日が近いうちに到来すると信じて疑わない。

キム・ジンファン 技術経営学博士




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