株式会社Healingpaper(ヒーリング・ペーパー)

2012年に2人の医者によって慢性疾患向けのサービスをスタート。2015年に現在の美容医療情報アプリ「カンナムオンニ」にピボットし、ユーザーのニーズに答える形で2019年に日本進出している。アプリの累計ダウンロード数は400万。カンナムオンニに登録している病院は韓国、日本を合わせて1700か所に上る。


―韓国No.1美容医療情報アプリ「カンナムオンニ」のディレクターのイム・ヒョングンさんにKORITがインタビューをしました。

―カンナムオンニはどのような会社で、どのようなサービスを提供していますか?

カンナムオンニは韓国No.1の美容医療情報アプリです。累計アプリダウンロード数400万に上るカンナムオンニを運営するHealingpaper(ヒーリングペーパー)は2012年に医者2人が創業した会社です。医療サービスは進歩しているイメージがありますが、時間当たりの対応できる人数が限られていて、良いサービスを全員が受けられていないのではないか、医療サービスの規模限定性¹を失くしたらどうかと考えました。そこで医療にITを結び付ければ解決できるのではないかという考えから創業された会社です。

はじめは慢性疾患向けのサービスを展開しており、それがHealingpaperというサービス名で今の会社名でもあります。このサービスは利用者も多かったのですが、医療法の規制により収益化がむずかしくなり、ピボットをすることとなりました。

それが現在の美容医療情報アプリの「カンナムオンニ」です。病院で実際に使用されている機器や価格、待ち時間、施術に対する満足度のレビューを提供しています。 医療サービス分野でITを駆使して役に立てる分野はなにかと考えたときに情報が不均衡である美容整形分野で信頼度のある情報提供サービスを作ろうということになりました。

美容整形の分野から始めましたが、ローンチから7年経った現在は、皮膚科や内科、歯科などへ領域を拡大しています。また現在は美容整形よりも皮膚科の施術数が多くなっています。

¹規模限定性:医療人力の影響力が直接対面する患者に限定され、サービス革新・改善による効果伝達規模が限定されること

アプリのトップキャプチャー

―「カンナムオンニ」というサービス名について教えてください。

サービスを利用するターゲットに親しみのある名前にしたいと思い「カンナムオンニ²」という名前をつけました。

カンナムオンニというと、20代後半以降の方はネガティブな印象を持っている場合が多いですが、20代前半は美容整形によってなりたい自分になることに対して良いイメージを持っているため、サービス名自体も受け入れられています。それから私たちがこのサービスを行うことで「カンナムオンニ」という名前が持っているネガティブなイメージを消したいという願いも込められています。

また日本進出の際、サービス名が受け入れられるかのテストをしてみたんです。ですが、カンナムオンニ以外の名前をつけても、データ上有利な結果が得られなかったことに加えて、実際に日本の病院に話を聞いてみた際もカンナムオンニという名前で拒否感を示す方はいなかったのでそのまま使用することになりました。

²カンナムオンニ:カンナムで整形をした女性を表す言葉。「カンナム(江南)」とは、韓国の地名で、美容整形外科やクリニックが多く立ち並んでいる高給住宅街。「オンニ」とは韓国語でお姉さんを意味する。

―カンナムオンニの特徴や強みはなんでしょうか?

美容医療に関する情報提供において、情報のクオリティーや信頼度が重要だと思っています。情報の信頼性のためにユーザーをはじめ、医者や看護師の声をよく聞くようにしています。

韓国ではカンナムオンニを利用し施術をした人に直接電話をして、アプリで見た情報と実際に病院で受けた説明が一致していたかや、病院での待機時間は長くなかったかなどを調査しています。病院側が、透明な情報を出し、良いサービスを提供する他ないという状況を作り出したいと思っています。

日本においても毎月インタビューを行っています。直接ユーザーの声を聞く作業は労力を費やすことではあるのですが、我々のミッションは「より良い医療サービスを誰でも受けられるように」ですので、大事にしたい部分です。

―日本に進出することになったきっかけはなんでしょうか?

病院やユーザーの話の中から日本進出の機会を得ました。韓国の医者から「来院する日本人の10人中8人がカンナムオンニのスクリーンショットを持ってくる」と聞きました。当時は日本語版サービスを展開していなかったのでとても不思議に感じました。

また、実際にユーザーからも日本語版をはじめてほしいという声があり、日本に市場があるのではないかと思い始め、そのときから3ヵ月間ほど毎週日本と韓国を行ったり来たりし、市場調査を行いました。

その間にに200人余りの方にお会いしました。医者や看護師をはじめ、美容医療に興味のある人、実際に施術を受けたことのある人、韓国に行ったことのある人はもちろん、反対に美容医療に興味がなく施術経験がない人や韓国に行ったことがない人、カンナムオンニを知らない人にもお会いしました。また、VC(ベンチャーキャピタル)や業界に精通している方々とも知り合い、現在も美容医療市場を一緒に盛り上げるパートナーとして関係が続いています。

こういった経緯を経て、日本にも美容医療市場ができはじめていること、そして情報をキャッチしにくいという特徴を持っている市場だということに気が付きました。また、市場にビックプレイヤーがいないならば顧客も不便さを感じているのではないかと思って、自分たちでやってみようと日本に進出することを決めました。

つまり、私たちは自分たちで戦略的にグローバル進出しようと思ったのではなく、市場のシグナルをしっかりと掴んで日本進出を決めたのです。

現在は日本サービスの開始から1年半が経ち、東京・大阪・名古屋をはじめとした都心エリアを中心に、掲載クリニック数が拡大しています。また、コロナ渦になり韓国に来ることが難しくなってしまったので、現在のところ、80%〜90%の方が日本国内の情報にアクセスしているという状況です。

―日本市場をどのように見ていますか?(韓国と日本の市場や、ユーザーの違いを含めて)

市場について、韓国は1人あたりの施術量は多いのですが、日本の人口は韓国よりも多いため、市場自体は日本の方が大きいです。また日本進出前、私が日本と韓国を行ったり来たりしていた3年前とは少し状況が変わり、日本でも美容整形の知識を持っている方が増えてきて、美容医療市場が大きくなってきているので日本市場のポテンシャルは高いと見ています。

ユーザーの違いとして挙げられるのは、情報の差ですね。例えば韓国では施術経験のある方が多いため、友人からでも美容医療についての情報をある程度得られますが、日本では施術を受けた人が周囲にいない場合が多くTwitterで情報収集をしているようです。

また、韓国の医者たちは始めこそ有名で大きな病院を選択しますが、その後はどんな病院にいるかというよりも、どんな施術ケースが多いのかが重要で医者自身がブランディングされ、個人クリニックを開業するパターンが多くなりました。そうすると病院数が増え、競争が起き、サービスが良くなる一方で価格が下がり始めるのです。

日本では現状、大手クリニックでの施術数が多く、この状況は5年前の韓国に似ています。しかし、1年前くらいから日本でも個人のクリニックが増え始め、日本も韓国と同じような流れをたどっていくのではないかと感じています。

― 日本進出を準備する過程での具体的なエピソードがあれば教えてください。

進出してまもなくコロナが拡大してしまい、オンラインで業務を進める必要があったため日本現地におけるチームビルディングは難しい部分でした。

また、採用の段階ではある程度の営業経験のある日本人を採用する必要があると思いましたが、病院とやりとりをするという難しい営業職であるため、100人近くの方と面接をして決めました。現在日本メンバーは12人で全員日本人ですが、とても良いチームができたと思っています。この部分に関しては本当に運がよかったと思っています。

―医療分野のローカライズはどのように行っていますか?

社内に韓国語と日本語が堪能な通訳・翻訳メンバー、そして医療分野に精通しているメンバーもいるので基本的には社内で韓国語と日本語の用語を合わせるなどのローカライズ作業を行います。それでも不明瞭な部分は日韓両国の医者に監修していただいています。

―今後の計画や日本以外でのグローバル展開の予定があれば教えてください。

現在は、日本から韓国にくる方も増えてきているので、日韓の情報を比較できる機会を提供していきたいと考えています。例えば、日本で韓国の病院を見つけ、韓国に渡り施術をするというようにです。また反対も同様です。これには両国の情報が透明でなければなりませんし、意思決定をするために質の良い情報や多くのレビューを提供する必要があると思います。

グローバル進出については、中国や東南アジアなどの近い国を考えています。中華圏やベトナムからでも日韓の病院情報を見られるようにし、病院の海外顧客獲得ニーズにも対応していきたいと思っています。

―最後に一言ありますか?

「カンナムオンニは日本でうまくいっている」と言われることが多いのですが、実際は日本で初めてまだ1年半しか経っておらず、私たちはまだ大きい会社とは言えません。市場を長い目で見ており、まずは顧客に良い価値を提供していきたいと思っています。

また、創業の意図でもある「医療サービス自体をより多くの人に利用してほしい」という考えを貫こうと思っています。お金を稼ぐことよりもユーザーに執着して着実にニーズに答えていきたいと思っています。

我々は美容整形自体を勧めたいのではなくて、美容医療をはじめとする施術について悩んでいる方々がしっかりとした情報を掴んで、納得できる決断をしてほしいと願っています。


株式会社Healingpaper -イム・ヒョングン ディレクター

会社HP:カンナムオンニ-美容医療・整形のすべて (gangnamunni.com) 

写真提供:株式会社Healingpaper