第三回:社会を根幹から変えるテクノロジーとビジネスモデルに期待
―支援する分野にはどのようなこだわりを持っていますか。
孫さん 社会を根幹から覆し、地球をより良い方向に導く可能性のあるテクノロジーに対して、積極的に支援したいと思っています。
―テクノロジーもカギになるわけですね。
孫さん 経験則でしかありませんが、テクノロジーが絡んでいないビジネスモデルは社会的なインパクトに欠けることが多いんです。やはりゲームチェンジャーとなるような革新的なビジネスの背景にはかならずといっていいほど素晴らしいテクノロジーがあるので、それらが両輪となって機能しているものに可能性を感じます。
―最近はどのようなスタートアップに着目していますか。
孫さん シンガポールのスタートアップで、3Dプリンターによるカスタマイズドラッグの製造を研究開発しているところがあります。患者一人ひとりの症状に合わせて、最適化された薬をつくることができるという3Dプリンターで、カスタマイズによって市販されている薬よりもさまざまな付加価値をつけることができるという特色を有しています。たとえば、私たちは薬局でよく「朝昼晩の食後に服用してください」といわれるわけですが、このプリンターを使えば、1日1錠飲むだけで朝昼晩の食後に服用した場合と同じ効能を持つ錠剤をつくれるのです。同様に薬のタイプによっては、1錠で1週間分の効能を持つものまでつくることができます。要はAIなどを駆使して、胃液で少しずつしか溶けないような薬の構造を綿密に設計することができるわけです。
これを用いてカスタマイズドラッグが安価につくれるようになり、法規制などの緩和とともに世の中に浸透していけば、さまざまな社会問題を解消することができます。昨今、飲み忘れなどによって多くの薬が廃棄されていることが問題視されていますが、このドラッグプリンターにはそういった社会課題の解決、そして医療費などの社会保障関連費の削減につながる可能性が秘められているのです。ちなみに、このスタートアップはシンガポール国立大学の学生2人組が発案したもので、当初は誰も見向きもしていませんでしたが、私たちがサポートし、技術が確立されるにしたがい、世界中から注目を集めるようになりました。
―学生や若者によるスタートアップには大きな可能性がありそうですね。
孫さん 学生の魅力は自由な発想です。従来の規制や商習慣、マーケットなどに関係なく、新しいものを生み出そうとするなら、学生の自由な発想や視点を大切にすべきだと思います。当然、規制などが障壁となってなかなか芽が出ないケースもあるでしょうが、そのビジネスやテクノロジーに社会的なインパクトがあれば、いずれは日の目を浴びるはずです。