レガシーが日本企業の成長を阻害している

―ITを使ったユニークなサービスについては、日本より韓国が一歩進んでいるという印象があります。

海老原さん 韓国のほうが先進的なサービスに関するリテラシーが高いという気はします。他方、日本はレガシーがある種の障壁になって、先進的なサービスが誕生しづらい側面があるように思います。

―レガシーがなぜ障壁になるのでしょうか。

海老原さん 日本はレガシーがあるがゆえに既得権益が確立しており、従来の仕組みに風穴を開けるような先進的なサービスを許容しない風土になっています。たとえば、電子ハンコがなかなか普及しなかったのはその典型です。ハンコによる決済システムが社会に定着してしまっており、業界団体などの権益も大きいため、おいそれと電子ハンコに移行することができなかったわけです。もちろん、コロナ禍によって多少はその傾向に変化が生じつつありますが、やはり既得権益が少ない他の国と比べると、先進的なサービスが誕生したり、普及したりしにくい風土になっているといわざるを得ません。

―たしかに海外ではあえてDX(デジタルトランスフォーメーション)といった言葉を使うことはありませんね。

海老原さん テクノロジーの進化を受け入れ、社会の仕組みを変えるのは当然のことですからね。それに韓国や東南アジアの国民は積極的にテクノロジーを取り入れており、高齢者も当たり前のようにスマートフォンをはじめとしたデジタル機器を使いこなしています。もっとも、日本もその状況に焦りを感じているからこそ、DXなどの標語を使い、民間企業に発破をかけているのでしょうが、遅きに失している感は否めませんね。

―それにしても、これほどギャップがあるのであれば、もっと韓国のスタートアップに関心を持つ日本企業がいてもいい気がするのですが。

海老原さん やはり韓国のマーケットが小さいため、あまり魅力的に映らないのではないでしょうか。ただ、先述したように韓国企業は基本的に最初から海外市場を視野に入れているので、そのあたりも加味した投資判断をしたほうがよいと思います。

―多くの日本企業が海外戦略を立てられずにいるわけですから、そういった韓国企業の海外に向けた推進力を得ることは大きなプラスになりそうです。

海老原さん そうですね。ただ、現時点ではその利点に気づいている人はかなり少数ですし、対する韓国企業も日本についてほとんど知りません。いわゆる日本通といわれる人たちの多くは50代以上の人たちで、若い世代の多くは日本のアニメやマンガには詳しくても、そのほかのことはほとんど知らないし、興味もほとんど持っていないのが現状です。