顧客起点で考え、顧客が本当に必要とするものはなにかを突き詰める|株式会社Channel Corporation -CCO 坂本 彩
プロフィール
上智大学文学部新聞学科卒業後、アクセンチュアに新卒入社し、デジタルコンサルタントとしてPoC専門チームにアサイン。バックエンド・フロントエンジニアとして、大企業のDX案件にて音声UI・AI・店舗接客ツールなどのUXをデザインおよび開発。その後、インターンとして参画していたチャネルトークに、日本における2人目のメンバーとして再合流。 ソフトウェアエンジニアとしてLINEとの連携などを担当しつつ、CS・セールス・マーケ・PR・採用・事業開発など広く携わりつつ、強みであった開発サイドとCSとしての領域を活かしてCCO(Cheif Customer Officer)に就任。現在は日本副代表。
―Channel Corporationについて教えてください。
Channel Corporationは企業と顧客の間のコミュニケーションの問題をAIコンタクトセンター(AICC)で解決するAll-in-one AIビジネスメッセンジャー「チャネルトーク」を提供しており、グローバルで170,000社以上に導入されています。
「顧客対応の未来はAIが鍵」をビジョンに、オペレーターと自然に話しているように顧客対応を行う生成型AIエージェント「ALF」、社内外とコミュニケーションができる「チャット機能」や「電話機能」、「Meet機能」、顧客管理をする「CRMマーケティング機能」、お客さまから得たインサイトを分析できる「統計画面」などの機能を提供し、顧客との会話を通して、顧客理解向上とお得意さん作りをすることで、事業の成長につなげる顧客中心文化を提供します。
本社は韓国にありますが、日本でも事業を展開しており、日韓スタートアップとして位置づけています。
そして、チャネルトークはAmazonやGoogleのような世界的なビックテック企業になることを目標としている企業です。現時点でそのような企業がアジアからほとんど登場していないと感じています。日本と韓国は共に製造業に強みを持っており、少子化問題という共通の課題にも直面しています。このような状況下で、製造業だけで競争し続けるのは難しいと感じており、私たちのような新しいスタートアップが成功するためには、ITやテクノロジーの分野でグローバルに認められることが重要だと考えました。
実は、チャネルトークは4つ目のプロダクトで、過去3回の失敗から学んで生まれたものです。その失敗の中で、顧客起点で考えることの重要性に気づきました。また、市場にある大きなニーズとは何かを考えたとき、顧客が存在しないサービスはありえないと思ったところから、私たちは顧客とサービスの間にある問題を全て解決することを目指しています。そして現在の技術やツールで解決できていない問題を解決することで、価値を提供したいと思っています。
まず取り組むべき課題として、少子化によるカスタマーサポートの人手不足問題に注目しています。この分野の問題を解決することで、より良いサービスの提供を目指しています。
例えば、近年チャットが普及しており、消費者同士の会話は日本ではLINE(ライン)、韓国ではKakao Talk(カカオトーク)を利用することが当たり前になっています。しかし、顧客と企業間コミュニケーションにおいては、日本ではメールフォーム、韓国では掲示板を使ってやり取りされることが多いのが現状です。ここでチャットが利用されない理由は、エンドユーザーにとって本当に使いやすいツールが開発されていないためだと思っています。
私たちは、顧客の視点からこれらの課題に取り組み、顧客とのコミュニケーションのギャップを解決するために、チャネルトークを立ち上げました。
―坂本さんがChannel Corporationにジョインしたきっかけを教えてください。
学生時代に日本では、韓国について保守的な考えを持ち、日韓関係を悪く見ているケースがあることを知り、これをきっかけに、日韓の歴史的な問題を理解するようになりました。そしてこのような状況は、日韓双方にとって大きな機会損失になっていると感じました。
日本人と韓国人は似たような文化を持ちながらも、方向性が異なります。例えば、日本人は慎重で細かいところに気を配りますが、韓国人は勢いがあり、野心的に物事を進める特徴があると思います。この日韓の特徴を組み合わせれば、素晴らしいことができるのではないかと思いました。これが、私が日韓共同で事業に取り組む理由につながっています。
こういった背景から外交官になろうと思い勉強していたのですが、日韓関係や政治の問題を解決しようとしても、国が違えば利害関係が必ず存在するため、根本的な解決は難しいと感じるようになりました。
そこで、本当に人々が仲良くできる瞬間は、何か共通の目的を持った時だと思い至り、日韓に共通する問題を一緒に解決することで自然に仲良くなれるのではないかと考えました。学生時代からの日韓関係に貢献したいという夢がさらに具体化され、日韓でグローバルに大きなことを成し遂げたいという目標に変わりました。その後、外交官ではなく通訳を目指していましたが、言葉を媒介する人ではなく、バリューを媒介する人になりたいと考えるようになりました。
また、これからはIT分野が発展していくだろうと感じていた中、チャネルトークに出会い、最初はインターンとして翻訳の仕事から始めることとなりました。当時、日本人の社員は私一人でした。それでも、チャネルトークの理念や夢に共感し、技術力はもちろん人々が親身に接してくれる姿勢にも惹かれました。「この会社が成功しないはずがない」と思い、「もし成功しなければ自分のせいだ」と感じました。そこで、チャネルトークで自身の夢を叶えながら、事業を伸ばしていきたいと思いました。
―強みや他社との差別化されている部分について教えてください。
私たちは競合を意識してプロダクトを作ることをしていません。本質を追求し、顧客が本当に必要とするものを開発すれば、どんな市場でも成功できると考えています。そのため、強みや差別化されたポイントを明確にすることは難しいのですが、結果的には多くの特徴が生まれていると思います。
チャネルトークは、先ほども述べたように世界的なビックテック企業になることを目標としており、その途中経過として、まず日本で誰でも知っているプロダクトになることを目指しています。
例えば、LINEのように、「LINEしよう」とプロダクト名が会話で使用されるほど広く認知され、使用されるツールがありますよね。そしてLINEは年配の方も使っており、普及率の高いアプリです。一般的なSaaSプロダクトは日本ではエンタープライズ向けが多く、BtoB向けで一部の人しか知らないものがほとんどです。私たちも同様にSaaSプロダクトを提供していますが、普遍的なプロダクトを目指しています。具体的には、Googleが提供するGmailのように、ビジネスを立ち上げる際に真っ先に導入を検討されるような存在になりたいと考えています。
このようなプロダクトを提供するにはどうしたらよいだろうか、顧客が本当に必要とするものはなにかを突き詰めた結果、現在のチャネルトークの強みのひとつとして、「使いやすさ」が一番にあげられるようになったと思います。
日本には多くのチャットボットがありますが、本質的な課題を解決しているものは少ないと感じています。チャットボットを使う上で間違った使い方をすると、顧客の重要な声を聞き逃してしまいます。特にスタートアップや小さな企業にとっては、顧客の声を聞いてそれを製品やサービスに反映させることが重要です。
チャネルトークは、顧客と友達のように話せるチャットツールとして始まりました。顧客と直接コミュニケーションをとることで、より深い関係を築くことができるのです。これは単に対応するだけでなく、顧客の情報を立体的に見せながら対応できる機能を持っているため、実現できました。また、顧客から得たアイデアやフィードバックを分析し、会社の運営や製品開発に役立てる機能も備えています。
チャネルトークはチャットボットだけを提供する企業ではなく、顧客とのリアルタイムなコミュニケーションを重視し様々なサービスを提供しています。
具体的には、FAQなどのよくある問い合わせにはチャットボットを使い、それ以外の重要な対応は人が行うことで、リソースを効率的に配分します。このアプローチに共感してくれる顧客と共に成長し、成功事例を積み重ねながら、さらに大きな顧客との関係を築いてきました。これがチャネルトークの大きな強みと言えると思います。
―具体的な活用事例を教えて下さい。
チャネルトークは特定の業界に限定せず、幅広い業界に対応しており、不動産サイトやコーポレートサイト、D2Cプラットフォームなど様々な用途で利用されています。
現在、最も多いのはECで、全体の約43%を占めています。その中でもアパレルが最も多く、上位30社のうち約70%がチャネルトークを利用しています。具体的な企業名としては、アダストリア、ユナイテッドアローズ、ジュンなどです。
アパレル業界では、オンライン上での接客をオフラインと同じように行うことが重要です。日本はもともと、オフラインのおもてなしのレベルが世界的に見ても高いです。オフラインでは自然な接客で売り上げやファンを作っていますが、オンラインではツールが追いついていません。データを活用しているものの、データが示す現象の背後にある理由が分からないことがあります。その結果、チャネルトークが登場する前は、自動販売機のような立体感のないECサイトが多かったと感じており、これではECサイトにおける個別の顧客体験が失われがちです。
しかし、チャネルトークを導入することで、ECサイトでもオフラインのような親身な接客が可能になります。チャネルトークは、オンラインショッピングでもオフラインのような顧客体験を提供できるツールです。例えば、ECサイトにチャネルトークを設置すると、店舗に入って「こんにちは」「何かお探しですか?」と親切に対応される体験をオンラインでも再現できるようになります。
ユーザーが商品を見ていると、「その商品、気になりますか?」「サイズをお聞きしましょうか?」など、店員のようにチャットで声をかけてくれます。チャットを開くと、まずチャットボットが対応し、簡単な質問に答えます。必要な場合は、人と直接つながり、オフラインのような対応が可能です。さらに、動画や画像を送って商品の詳細を説明する機能もあり、より立体的な接客ができます。
このような接客機能により、多くのECサイトが売上を上げています。しかし、私たちはここで終わりません。多くの店舗が電話で顧客対応を行っているので、チャネルトークでも電話機能を追加しました。これにより、電話対応の内容を文字起こしして分析することもできます。
また、今後はAIを活用して、返品や住所変更などの手間のかかる作業を効率化し、人手が必要な部分にリソースを集中できるようにしていきます。少子化の影響でCS(カスタマーサポート)担当者の採用が難しくなる中、この効率化は重要です。
さらに、元々店舗で活躍していた優秀な接客担当者が年齢を重ねて店舗での勤務が難しくなった場合でも、チャネルトークを使ってECサイトでの接客に活躍の場を提供し、新たな雇用を創出しています。
-日韓共同で事業を進めるにあたって注力していることはありますか?
私たちが日本と韓国で事業展開する際に、戦略的な考えがありました。単に両国で活動するだけでなく、国民性を考慮したアプローチです。
日本人は慎重で、細かいことをよく確認します。一方、韓国人はツールを試してみて、自分で設定を進めるリテラシーが高いです。そこで、韓国でまずテストを行い、その結果を基に日本でマネタイズを進めるという戦略を取りました。こうして日本での成功を足掛かりにして、グローバルに展開する計画です。
また、日本市場から得られる詳細なフィードバックは、私たちの製品開発に大きく貢献しています。例えば、日本の顧客からの要望で開発された「ゴールトラッキング機能」があります。この機能は、接客担当者が自分の貢献度を確認し、モチベーションを高めるために導入されました。韓国ではこのようなフィードバックは少なかったものの、日本市場からのニーズに応える形で開発され、韓国でも好評を得ています。
このように、日本市場からのフィードバックを受けて、グローバルで利用できる機能を開発し、製品に反映させています。現在、この戦略は順調に進んでおり、今後も各地域でさらに成長していけると考えています。日本でも着実に成長を続け、さらにグローバル展開としてアメリカに支店を設けました。
―今後のChannel Corporationの展望やビジョンを教えてください。
今年の主な目標はAI機能の拡張です。これまでシナリオ型のチャットボットを提供してきましたが、より自由に応答できるAIを開発しています。具体的には、FAQページを作成するドキュメントシステムや、詳細なガイドやブログのようなものを生成できるシステムを導入しました。
AIを活用して、FAQやドキュメントシステムから顧客の質問に即座に回答できる機能も開発中です。また、バックエンドの処理を行うAI、私たちが「ALF(アルフ)」と呼んでいる生成型AIエージェントも導入し、顧客の問題解決をさらに進める予定です。
また、今年リリースされたMeet機能を拡張し、より多くの企業が利用できるようにする予定です。これらの機能拡張を通じて、さまざまな規模の企業にとってさらに使いやすいプラットフォームを提供していきたいと考えています。
そして長期的な視点では、私たちは、AmazonやGoogleのような世界的なビックテック企業になることを目標としていますが、この目標を達成するためには30年間の計画が必要だと考えています。
現在注力している顧客コミュニケーションの問題を解決できた後、顧客とサービスの間の問題を解決していきます。
―坂本さん自身の今後のビジョンについて教えてください。
個人的には、日韓共同で成果を出すロールモデルになりたいと考えています。これまでは、韓国で作ったプロダクトを日本向けにローカライズし展開することに注力してきました。そのために採用を増やし、チームを拡大し、お客様との関係を築きながらブランドを広げることを重視してきました。このアプローチは今後も続けていきたいと考えています。
現在は、日韓とアメリカのセールスや売り上げ管理の責任者も兼任しており、日本と韓国が相互にノウハウややり方を共有することで、単に一方向の関係ではなく、双方向の協力体制を築いています。こうして、アジアで成長する企業を目指し、今後の発展に取り組んでいきたいと考えています。
株式会社Channel Corporation
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