韓国・ソウル、三成洞(サムソンドン)のコンベンションセンター、COEX(コエックス)で開催されたCOMEUP(カムアップ)2024は、40カ国150社あまりのスタートアップが参加したイベントの規模を越え、韓国のスタートアップエコシステムの現在地を示した。6回目を迎えたこのイベントは、特にディープテック分野の成長を確認する場となった。中小ベンチャー企業部(省)とKorea Startup Forum(コリアスタートアップフォーラム)が主催した今回のイベントは、グローバル起業・ベンチャーエコシステムの関係者間の実質的な交流を目的に開催された。
展示会場で最も注目されたのは、技術の奥深さだった。人工知能(AI)半導体開発会社のHYPER ACCEL(ハイパーエクセル)、糖化血色素の測定器開発会社のOrange Biomed(オレンジバイオメッド)、ナノメンブレン複合素材企業のSOFNT(ソフエヌティ)、高精度自動運転ロボット開発会社のNavifra(ナビプラ)などが代表的だ。これらは韓国のスタートアップがサービスの革新を越え、技術革新が進化していることを示す事例だ。
UAEのブース今回のCOMEUP 2024にはUAE経済使節団が訪問した。ⓒPlatum
UAEの参加は、今回のイベントの国際的な性格を強調した。UAE経済省のアリア・アブドラ・アルマズルイ起業担当官は、「UAEでは中小企業が全事業の94%を占め、非石油GDPの63.5%に上る」とUAEのスタートアップエコシステムの現状を説明した。UAEからは、専門ロボット開発会社ICOSIUM ROBOTICSと食品廃棄物を航空燃料に転換するCirca Biotechが参加し、技術力を披露した。
日本とスウェーデンの参加も注目に値する。日本のLiberaware(リベラウェア)は超狭小空間の点検ドローン「IBIS2」を披露し、スウェーデンとアフリカ地域では農業、AI分野のディープテック企業が参加した。
アサン商会6期デモデーの様子ⓒPlatum
Asan Nanum Foundation(アサン分かち合い財団)の「アサン商会第6期デモデー」は、今回のCOMEUPの注目すべきプログラムの一つだった。脱北青年起業支援プログラムのアサン商会は、チョン・ジュヨン会長の号である「牙山(アサン)」と彼の最初の事業体「キョンイル商会」にちなんで作られた。今回のデモデーでは、6ヶ月間のインキュベーションの過程を経た10チームが参加し、飲食、環境、ライフスタイル分野の革新的なビジネスモデルを披露した。
参加企業のうち、HLS環境のキム・ダヘ代表は、環境汚染問題を解決するための環境にやさしい農業用マルチングフィルムを開発した。この製品は6ヶ月以内に自然分解し、微生物によって堆肥化され、従来の製品に比べて回収コストを200%削減できる。そのほか、キヨクピウム韓服、DAEJUN MOTORS(テジュンモータース)、The Welcia(ザ・ウェルシア)、マイビンテーラー、アード、withpialette(ウィズピパレット)、Jinsol(ジンソル)、ヘオルムフード、HEALING you(ヒーリングユー)が参加し、それぞれの事業アイテムを発表した。
Asan Nanum Foundationは、これらのスタートアップに計4,300万ウォン(約463万円)の賞金と共に、起業支援センターMARUの入居スタートアップの特典、広報マーケティング支援、専門家マッチングプログラム、ベンチャーキャピタル投資家の推薦など、実質的な成長支援を提供する。Asan Nanum Foundationのチョン・ナミ常任理事は「脱北青年起業チームが多様な起業エコシステムの関係者とつながり、もうワンステップ跳躍する機会になることを願っている」と話した。
「COMEUPスターズ」では、40の選抜されたスタートアップが技術力とビジネスモデルの検証を受けた。Flipper Corporation(フリッパーコーポレーション)の「Nachocode(ナチョコード)」は、URLリンクだけでアプリのリリースが可能なノーコードプラットフォームを発表した。ソク・ジョンウン代表は「JavaScript(ジャバスクリプト)ベースで開発し、市場へのアクセス性を高めた」と説明した。
COMEUP 2024 SISのセッションでsopoong Venturesのハン・サンヨプ代表が発表している。ⓒPlatum
気候テックの分野では新たな視点が提示された。sopoong Venturesのハン・サンヨプ代表は「トランプ米次期大統領の2度目の就任が気候テック企業にはチャンスになる可能性がある」と分析した。Gridwiz(グリッドウィズ)のキム・グファン代表は「テキサスやカリフォルニアは市場中心で気候テック産業が発展しており、連邦政府の政策で大きな変化は起きないだろう」と展望した。
イベントでは、気候テック産業の課題も議論された。SuperBin(スーパービン)のキム・ジョンビン代表は「気候テック企業が作ったサービスは公共財の性格を持っており、市場の需要を見つけるのが難しい」とし、政府の積極的な支援が必要だと強調した。特に、気候テック産業関連のデータ構築が喫緊の課題として指摘された。
中国のロボットスタートアップ、ユニトリーの二足歩行ロボットⓒPlatum
中国のユニトリーの二足歩行ロボットは技術的な完成度を示した。同社は、自立歩行が可能であることが核心競争力だと説明した。ユニトリーは韓国企業ROAS(ロアス)と協力してロボット流通を開始した。
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K-Startup Grand Challenge(ケイ・スタートアップ・グランドチャレンジ)では、114ヶ国1716チーム中、インドのポリモライズが1位を獲得した。クラウドベースのAI素材情報学ソフトウェアで15万ドル(約2,300万円)の賞金を獲得した。2位はアメリカのナノドロッパー、3位はポルトガルのオープンエナジーだった。
イベントの主なプログラムとして、フューチャートークも行われた。Rebellions(リベリオン)のパク・ソンヒョン代表が基調講演を担当し、最近SKの半導体関連会社のSAPEON Korea(サピオンコリア)と合併を完了したRebellionsは、企業価値1兆3,000億ウォン(約1,400億円)と評価された韓国初のAI半導体ユニコーンだ。
韓国国際協力団は、発展途上国の問題解決のためのスタートアップ技術を紹介した。CTSプログラムを通じて発掘したBodit(ボディット)、TAB(ティーエイビー)、TR(ティーアール)、TagHive(タグハイブ)、CrePASS Solutions(クレパスソリューションズ)、Cast(キャスト)など6つのスタートアップが持続可能な開発目標の達成の成果を共有した。
スタートアップコリア特別ビザ1号企業であるスペイン企業「AIMA」。(右)カルロス・キック最高開発責任者(Carlos Kik, CTO of AIMA Beyond AI)、(左)ギレルモ・デ・ラ・イグレシア・アビラ(Guillermo De La Iglesia Ávila)開発者ⓒPlatum
COMEUP 2024では、海外スタートアップ20社あまりが参加し、韓国のスタートアップと投資家に事業アイテムをPRした。注目すべきは、最近導入された「スタートアップコリア特別ビザ」第1号の受給者であるAiMA(アイマ)だ。AIベースのデジタルヒューマンソリューションを開発したこのスペインのスタートアップは、新しいビザ制度を通じて韓国進出のチャンスをつかんだ。
これまで、技術起業ビザ(D-8-4)を取得するためには、起業移民人材育成プログラム(OASIS)に参加して一定以上の点数を獲得するか、「K-スタートアップグランドチャレンジ」でトップ20に選定、または、政府の起業支援事業の対象となる必要があった。一方、スタートアップコリア特別ビザは、こうした定量的な要件を最小限に抑えている。
スタートアップメディアPlatumのチョ・サンレ代表が大学生対象のガイド付きプログラムでガイドを務め、ブースを回りながら各企業の紹介をしている。
今回のCOMEUP2024では、若者を対象としたガイド付きツアープログラムが運営された。高校生と大学生の団体を対象としたこのプログラムでは、現役のスタートアップの代表が直接ガイドを務め、起業現場の話を聞かせた。参加した学生は、実際の起業家の経験談やアドバイスを通じて、スタートアップエコシステムをより身近に理解する機会を得た。
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イベントに先立ち、懸念もあった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が宣言した非常戒厳令と弾劾の政局で世界各国が韓国を旅行注意または警戒国に指定し、グローバル関係者の来場にブレーキがかかるのではとの見方もあった。
だが、COMEUP 2024は、特にディープテック分野の成長を確認できる場となった。実際にグローバル起業・ベンチャーエコシステムの関係者が参加し、実質的な交流を続けた。あるスタートアップの関係者は「海外企業や大企業とのミーティングが予定されるなど、資金調達と協業の機会は依然として活発だった」と評価した。
COMEUP 2024は、韓国のスタートアップエコシステムの技術的成熟度とグローバルネットワークの拡大を示す指標だった。特に、ディープテックと気候テック分野の成長は、韓国のスタートアップが進むべき方向性を示した。様々な分野の技術革新は、韓国のスタートアップエコシステムの現在と未来を同時に見せてくれた。
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<画像=中小ベンチャー企業部のオ・ヨンジュ長官とKorea Startup Forumのハン・サンウ議長がスタートアップブースを視察している。ⓒPlatum>