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韓国でスタートアップのM&Aがうまくいかない3つの理由

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[BLTコラム] 韓国でスタートアップのM&Aがうまくいかない3つの理由

事業を成功させるというのは難しいことだが、一度成功を収めた企業はより切実に投資先を探し求めるようになる。競合他社は、虎視眈々と市場シェアの拡大を狙い、大きな売上や上場(IPO)を達成した初期の事業アイテムは、数年経つと消費者に敬遠されがちだ。様々な産業と市場への多角化を通じてリスクを分散させることが、こうした成功企業にとって最重要課題だ。市場の変化への対応力を高め、安定した収益構造を作るためにはM&Aが不可欠となる。M&Aというペダルをこがなければ、企業という自転車は転倒してしまうということだ。

しかし、韓国ではM&Aを円滑に進めることは難しい。スタートアップ側も、先に成功した企業に技術を奪われるより、コスダック市場に上場(IPO)することを望んでいるからだ。VCやPEのような財務投資家も、技術特例上場やSPAC(スパック)上場など様々な特例制度を利用して、投資した企業が早く上場し、株式を現金化することを望んでいる。そこで、韓国がM&Aが難しい国になった原因を3つ挙げてみたい。

買い手側の事業計画の欠如

「オム弁理士、有望なスタートアップがあったら紹介してほしい。」という相談を1年に100件以上は受ける。特許法人BLTには、2,000以上のスタートアップが所属している。しかし、このような依頼を受けると私は、「事業計画書はありますか。」と聞き返すことが多い。大半の成功企業は、事業計画なしにM&Aを始める。これらの企業は「戦略的投資家(SI)」と呼ばれ、たいていは余裕資金を持っている。しかし、現金があっても「計画」がなければ、「有望な企業」を紹介することはできない。戦略的投資家がどのような考えを持っているのか分からない状況では、「有望な企業」を100社以上紹介しても、推薦する自分の時間とそれを検討しなければならない彼らの時間が無駄になるだけだ。資金があっても計画がないのであれば、VCやPEのような財務投資家(FI)のベンチャーファンド結成にLPとして参加することを勧めている。

成功を収めた企業が少額をスタートアップに投資する場合には、別途の事業計画書は必要ないが、会社の将来のための大規模な投資やグループ会社化を目指すM&Aにおいては、事業計画書が非常に重要だ。買収企業(Buyer Side)側は、潜在的な被買収企業(Seller Side)の事業計画書の入手に重点を置くが、それよりも先に必要なのが「買い手側の事業計画書」である。100億ウォンの売上を上げている企業なら、1,000億ウォンの売上を目指すための事業計画を立てるべきで、1,000億ウォンの売上を上げている企業なら、1兆ウォンの売上を目指すための事業計画を立てるべきだ。遠洋漁船でマグロを獲っていた企業が、包装容器産業や物流産業に関する事業計画を綿密に立てた結果、現在のDongwon(ドンウォン)グループになったようにだ。単純に、「うちには資金があるから、良い企業を紹介してくれ。」と探し回っても、手数料を稼ぐための提案は増えるが、良い案件は来ないだろう。良い案件は、買い手側の「事業計画書」から始まるのだ。

韓国は製造業を基盤とする国だ。製造業基盤の経済生態系で成長した製造企業の従来の原価計算方法では、スタートアップへの投資やM&Aはほとんど不可能だ。歴史が長い伝統企業こそ、スタートアップの事業計画書の作成方法を学び、自社の10年後、20年後の姿を描いてみる必要がある。そして、そのビジョンに合ったスタートアップと出会うことで、より意気投合できるパートナーを見つけやすくなり、「かっこいい兄貴」的な存在になるだろう。

不十分な技術デューデリジェンス

M&Aでは、財務デューデリジェンス(Financial Due Diligence)と法務デューデリジェンス(Legal Due Diligence)が重要だ。韓国でM&Aのほとんどが会計法人や法務法人によって管理される理由も、やはり財務デューデリジェンスと法務デューデリジェンスが重要だからだといえる。100億ウォンの会社を買収したのに、10億ウォンの価値しかなかったら、それは完全に失敗した取引であり、100億ウォンの会社を買収したのに、200億ウォンの損害賠償をしなければならない場合も、完全に失敗した取引となる。しかし、「輸出で成り立っている大韓民国」において「技術デューデリジェンス」の重要性についてはあまり語られない。技術だけで評価されている100億ウォン規模の会社を買収したのに、その技術が10億ウォン以下の価値だった場合、それもまた完全に失敗した取引ではないだろうか。それにもかかわらず、韓国では「技術デューデリジェンス(Tech Due-Diligence)」についての話は、M&Aの過程であまり取り上げられない。

技術デューデリジェンスは、被買収企業が保有する技術資産の価値を評価する過程だ。ソフトウェア、ハードウェア、特許、技術インフラなどを含めて評価する。被買収企業が核心特許として主張していた特許が何の役にも立たない場合もあれば、素晴らしい性能を持つソフトウェアであっても、セキュリティの脆弱性でサイバー攻撃のリスクを抱えている場合もある。ハードウェアとして優れた技術であっても、競合他社の核心特許により、結局、米国市場進出に使えない場合もある。買収後に、被買収企業の技術が買収企業の技術と連携が難しいと判明することもある。また、被買収側が、「ノウハウだから見せられない」と技術の公開を拒むこともあり、買収代金を支払った後に、実はその技術が買収側が既に保有している技術だったという場合もある。技術デューデリジェンスは「輸出で成り立っている大韓民国」において、財務デューデリジェンスや法務デューデリジェンスよりもむしろ重要なプロセスかもしれない。今後、その重要性はさらに高まるだろう。

合併後の統合(PMI)失敗

M&Aの成果は、ディール(契約)が成立してから一定期間が経過して初めて判明する。当面は、大規模なM&Aの金額に注目が集まるが、実際にそのM&Aがきちんと成果を出したかどうかについては、メディアではあまり取り上げられない。多くの企業のM&Aプロセスは、結局「成果」を出すことを目的としており、成果を出すためにはM&A後の統合(PMI:Post-Merger Integration)がM&Aそのものよりも重要だ。これは、M&A専門家たちの間では当然の事実だ。まず、M&Aの初期段階から明確な統合ロードマップを作成し、段階的な計画を立てる必要がある。各プロセスの責任者を指定し、分野別に統合を率いるリーダーを決めなければならない。細かなスケジュール管理も行うべきだ。

次に、水と油のように異なる文化を持つ2つの企業を合併し、成果を出すためには、文化的な統合に注力しなければならない。統合プロセスは、買収される企業にとって不安そのものであり、社員が買収企業を「占領軍」と呼ぶほど恐れを抱くのは当然である。スタートアップを買収する企業は、スタートアップの文化を理解しようと努力しなければならず、彼らの成果と成長可能性が彼らの文化から生まれたものであることを認識する必要がある。組織全体の一体感を高め、抵抗を最小限に抑えるためには、彼らが使用する言語から習得すべきなのだ。

最後に、システムの統合が重要だ。異なる組織のITシステムや業務手順などは全く異なるため、システム統合の計画が非常に重要となる。買収企業にとって30年間「当たり前」だったシステムが、被買収企業の社員にとっては完全に時代遅れのもので、業務効率低下の要因となる可能性がある。逆に、迅速な意思決定が成長原動力であったスタートアップのITシステムは、責任と役割が曖昧な不明確なITシステムだと買収企業に見なされるかもしれない。統合された評価システムも必要であり、被買収企業の社員に過度な変化が起こったことで、集団退職につながらないように細心の注意を払う必要がある。

M&Aは企業の持続的な成長を可能にする唯一の鍵だ。多国籍企業にするためには、事業計画を大きく描く必要がある。また、被買収企業に対する技術デューデリジェンスを明確に行うべきだ。そして最後に、合併後の統合プロセスに力を入れるのだ。韓国の経済は、米国資本による人為的な製造業環境が成長の基盤となった。しかし、2024年の今の韓国はどうだろうか。人口も減少し、経済の活力が低下している。もしかしたら、私たちに残された最後のチャンスは、M&Aにあるのかもしれない。

筆者紹介:BLTのオム・ジョンファンパートナー弁理士は、スタートアップを発掘し、直接投資するアクセラレーター型の特許事務所「特許法人BLT」の創業者だ。企業診断、ビジネスモデル、資金調達、事業戦略、アイデア戦略などのさまざまな業務を行っている。

原文:https://platum.kr/archives/229697



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