人口構造問題をスタートアップが解決できるのか

はじめに… 

今年2月22日、韓国統計庁が発表した「人口動向調査」によると、韓国の合計出生率は2022年基準0.78で過去最低、OECD諸国の中で最下位でした。合計出生率とは、出産可能年齢の女性(15~49歳)一人が出産可能期間(15~49歳)中に産むと予想される平均出生児数で、これを考慮すると現在韓国は人口減少を超え、人口消滅に向かって歩んでいる状況です。

このような低出生率が続けば、2060年には韓国の出生児数が18万人に減り、生産可能人口は2040年2,852万人、2060年には以前比10%に過ぎない266万人に減少する見通しです。それだけ現在の韓国の少子高齢化問題は絶望的な状況にあります。ましてや、日本の少子高齢化問題を予見していたにもかかわらず、より悪い状況に陥ってしまいました。

少子化と人口減少の問題は、別途記事を書く必要があるほど、1~2つの理由だけでは説明できない複雑な理由が絡み合っています。しかし、このように子どもが減っている状況下でも、最近韓国では子どもをターゲットにしたキッズスタートアップの成長が目立っており、そのうちいくつかの企業を紹介したいと思います。また、少子化が続いているにもかかわらず、韓国ではなぜキッズスタートアップが成長しているのか見てみましょう。

韓国合計出産率・キッズ産業市場規模

キッズエコノミー

韓国メディア「毎日日報」の記事によると、グローバルコンサルティング企業「McKinsey&Company」が、韓国のキッズ産業市場規模を2025年58兆ウォン(約6兆4千億円)と予測していることを明らかにしました。2018年の市場規模が40兆ウォン(約4兆4千億円)であったことを考えると、年間平均成長率は約16%に達します。グローバルベースで見ると、子どもは減っても、子ども向けの市場は大きく成長していました。

もちろん、キッズ産業は韓国だけで成長しているわけではありません。アメリカやヨーロッパをはじめ、世界中で成長している市場ですが、特に韓国やベトナムをはじめとするアジア地域の市場成長が目立っています。これは、アジア地域の経済規模が拡大していることに起因しています。

世帯当たり出産する子どもは減る一方、平均所得が増加し、子どもにかける費用が増加したのです。そこにアジア特有の子どもの教育に対する熱の高さ、親子愛が相乗効果を引き起こし、オンライン上でキッズ産業関連キーワードの言及量も上昇傾向にあります。

特に韓国では最近、子ども一人のために、祖母、叔母、叔父など家族が財布を開ける「Ten Pocket(テンポケット)」文化と「Golden Kids(ゴールデンキッズ)」という新造語が流行しました。それだけキッズ市場にとって子どもは、両親や親戚、身近な知人の消費力を担う「V.I.B(Very Important Baby)」なのです。

直近3年間育児市場関連の言及量推移/出典MADTIMES

キッズスタートアップ

前述したように、子どもが少ない分、1~2人の子どもに対する支出が増え、乳幼児から児童まで、それぞれの時期に合わせた様々な製品やサービスが、市場に多く出てきています。

キッズ産業の企業が主に取り組んでいる領域は、大きくコマース、コンテンツ、育児ケアサービスに分けることができます。このようなサービスを提供する企業は、子どもを育てるのに必要な様々な商品を販売し、子どもたちの成長過程に必要な教育や体験コンテンツを提供、子どもを育てるのが難しい部分を解決するための様々なソリューションを提案しています。 

Konny by Erin 出典:flex blog

最初に紹介する「Konny by Erin(コニーバイエリン)」は、親としての生活をより便利に、素敵にというミッションに基づいて「Konny抱っこ紐」をはじめ、子育てに必要な様々な商品を販売している企業です。最近は商品の種類を多様化し、子育てライフスタイルブランドとして生まれ変わりつつあります。

Konny by Erinは、実はスタートアップというには、すでにある程度成長している企業です。創業してから10年以上が経ち、日本やオーストラリア、アメリカなど世界110カ国に製品を販売し、昨年だけで268億ウォン(約29億円)の売上を達成するなど、市場ですでにPMF(Product Market Fit)を見つけたと言えるからです。

しかし、この企業が注目される点は、一児の母であった現CEOが、子育てとキャリアを両立させるために起業を選んだという点です。そのため、創業当初から現在まで100%全社員が在宅勤務という破格の福利厚生を維持しており、妊娠や出産、育児経験がある場合は採用で優遇するなど、子を持つ親のための福利厚生が多く、キャリアと育児を両立しようとする多くの親が憧れる企業の一つでもあります。

Tictoccroc(ティックトッククロック)

 次に紹介する企業は、子どもケアサービスと教育サービスを融合させた「Tictoccroc(ティックトッククロック)」です。このサービスは、1歳から小学生までの子どもと、大学生や保育士、コーチなど様々な先生をマッチングし、彼らが子どもたちに様々な教育サービスを提供しながら、保護者の育児の空白を解消してくれるサービスです。

単に子どもと遊ぶだけでなく、登下校を手伝ったり、英語や美術など様々な学習指導を行い、共働きや残業が多く、子どもに十分な時間を与えることができない保護者らが多く利用しています。

特に、昨年160億ウォン(約17億5000万円)規模のシリーズB資金を調達し、成長性が認められ、年平均90%以上の会員が継続的に増加し、最近では事業領域をオンラインを越えてオフラインのキッズセンターに拡大しています。

babygo(ベビーゴー)

最後に紹介する「babygo(ベビーゴー)」は、季節や地域など様々な基準から、親と子どもが一緒に出かける2万以上の場所を推薦してくれるサービスです。2019年にInstagram(インスタグラム)からスタートしたこの企業は、2020年にアプリケーションサービスをリリースした後、2022年に中小ベンチャー企業部主管の技術創業支援プログラムであるTIPS(ティップス)に選定され、その成長性が認められました。

繰り返される空間経験に飽きる子どもたちの性質上、常に親は次に子どもをどこに連れて行こうかと、場所を探さなければならない煩わしさを、このサービスを通じて解決しています。

PMFではなくDMF(Demographic Product Market Fit)

上記で紹介したキッズスタートアップが生み出すサービスは、共通して子どものためのサービスでもありますが、子育てをする親が抱える悩みを解決するためのサービスでもあります。特に韓国では、社会構造、政府政策、職場での育児認識などの問題により、仕事をする親が子どもを育てるのに多くのリスクを負う必要があります。

特に昔と違い、共働きでなければ円滑な子育てができない現在の状況の中で、若者は結婚を諦めたり、結婚しても子どもを産むことを諦めたり、ディンク族(DINK:Double Income, No Kids)として暮らすことが多くなりました。実際に統計庁資料によると、結婚はしたが出産しないと答えた既婚女性が約47万人に達しました。

すでに韓国は2006年から2020年までの17年間、低出産解決のため、予算として約332兆ウォン(約36兆円)を使用していますが、誤った政策の方向性により、むしろ毎年出産率が落ち、今は最低点を更新し続けており、人口政策に対する根本的な解決策が急速に要求されています。

生まれてくる子どもが減るということは、企業にとって将来の顧客の数が減ることを意味します。また、生産可能人口が減る分、韓国市場規模が縮小し、企業にとって良いニュースとは言えません。

通常、一般的なスタートアップはPMF(Product Market Fit)を見つけ、市場で成長しなければならないと言います。市場で成功したユニコーン企業は顧客中心で考え、市場を分析し、革新的な挑戦と迅速な実行力を基に、様々な革新を生み出しました。

しかし、人口が減少する現状では、有意義な市場を捉え、その市場を目指して企業を経営していても、人口が減少すれば市場分析が無意味になる可能性があります。

Bluepoint Partners(ブルーポイントパートナーズ)イ・ヨングァン代表/MONEYTODAY

ベンチャーキャピタル企業であるBluepoint Partners(ブルーポイントパートナーズ)イ・ヨングァン代表のあるメディアのインタビュー内容を見ると、人口構造の変化に関連する新しい市場で機会を発見し、現在の構造を改善して市場性を確保していくDMF(Demographic Product Market Fit)という概念を話しています。

人口構造の変化で生じた様々な問題の解決に挑戦するスタートアップが、新たな成長の機会をつかむことができるということです。人口構造問題は、特定の顧客層の問題ではなく国家的な問題であるため、迅速に対応し、市場でソリューションを検証できるスタートアップが先に事例を作れば、公共領域および大企業の支援が加わり、人口減少問題を解決できる一つのきっかけとなるはずです。

人口問題と市場機会/出典:毎日経済

単に人口問題をスタートアップが解決するという大義名分を超えて、構造的な問題を解決するためのサービスが市場に定着すれば、その成長性は想像を超えるでしょう。「構造的な問題」というのは、市場は大きいが、これまで社会的に不可抗力的な力が働き、問題を解決できなかったということなので、このような問題を解決する企業は、大きな経済的報酬を得ることになります。

もちろん、いくつかのスタートアップが構造的な問題をすぐに解決することはできないかもしれません。しかし、このような考えを持つ企業が増え、人口構造問題を共に考えていくことで、日本をはじめ、高齢化・少子化に悩む他の国の良い模範例として提示できるのではないでしょうか。