エドテック、教育改革をリードする
なぜエドテックフェアに行くことになったのか
近年、少子化問題は私たちの社会の主たる問題として議論され始めています。しかし、根本的な解決は後回しにされたまま出生率は下がり続け、結局、2022年の韓国の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと予想される平均出生数)は0.78人でした。
また、今年のソウルの合計特殊出生率は0.53です。悲しいことですが、現在の状況を見ると、前例のない人口減少が進んでいるわけです。 そんな中、興味深い統計が一つ発表されました。
韓国租税制定研究院の報告書によりますと、幼い子供を持つ家庭の私教育費の支出がこの5年間で38%ほど増加しました。特に子供が小学生、幼稚園と幼いほど教育費の支出が多いことがわかりました。子供はどんどん減っているのに、子供への教育費はむしろ、どんどん増えているのです。
子どもの数は減るのに教育費にかけるお金が増えるということは、逆説的に市場の規模が大きくなることの反証でもあります。以前からエドテックに関心があった私は、ちょうどソウルでエドテック関連のフェアが開催されると聞き、(ソウル市)三成洞(サムソンドン)のKOEX(コエックス)を訪れることにしました。
2023エドテックコリアフェア
2023エドテックコリアフェア2023(Edtech Korea Fair 2023)は「エドテック、教育改革を導く(Innovate Education with Edtech)」をテーマに約250の企業や機関が参加しました。企業の広報の場にとどまらず、教育部や産業通商資源部(部は省に相当)といった政府機関が主催し、KOTRA(大韓貿易投資振興公社)などが主管する大規模な催しとなりました。
今回の博覧会では大きくDXE(Digital Transformation of Education)、AR/VR/XR/3D/メタバース、SW/AI/コーディング/メーカー、コンテンツ/著作ツール/授業支援、ハードウェア/支援ツールにカテゴリーを分けて展示が行われました。
訪問した初日は、あちこちで小規模なカンファレンスも行われており、海外バイヤーとの輸出のためのビジネスミーティングがラウンジにおいてかなり活発になされていました。
エドテックもやはりAIが大勢
フェアを見て回る中で、一番目についたキーワードは「AI」でした。教育フェアではなく、AI技術フェアではないかと思うほど、フェアのほぼ全てのブースではAIを取り入れた様々なサービスが宣伝されていました。あらゆる産業にAIが組み込まれ始めた今、教育にもAIが組み込まれ始めているようです。
私が訪れた日、最も長く足を止めたブースは、質問ベースのAIコースウェア企業である「CLASSUM(クラッサム)」のブースでした。CLASSUMのイ・チェリン代表は、2021年に米国の経済誌Forbes(フォーブス)の「アジア30歳以下のリーダー30人」に選ばれています。
CLASSUMは、先生に直接質問するのが難しい場合、生徒自身がサービスを通じてAIに質問してAIが回答し、その記録を教師が確認できるようにする「スマート教室」を標榜するサービスでした。 説明を聞いていると、授業の教材として魅力的に見えました。ブースを見学している間、教師を対象とした説明会を聴こうと、ブースの外でも多くの教師たちが立って耳を傾けており、関心の高さを感じました。
今回のフェアでは、すでに教育業界で確固たる地位を築いている企業のAIを基盤としたエドテックサービスを垣間見ることができました。老舗の二社の教科書会社Chunjae Education(天才教育)とVisang Education(ピサン教育)は、それぞれ自社コンテンツにAI技術を活用し、生徒と教師の両方に役立つサービスを来場者に披露しました。特に、生徒の教育レベルを分析し、弱い部分とレベルに合わせた教育環境を提供するサービスが印象的でした。
Courseware(コースウェア)
そのほか、フェアのあちこちで「Courseware」という単語が目につきました。Coursewareは、Course(教育カリキュラム)とSoftware(ソフトウェア)の合成語で、教育内容や方法または手順などを含む教育目的のサービスを意味します。
教育カリキュラムが次第に高度化する中、1人の教師が担当する業務の領域は非常に大きいのが実情です。特に2025年から韓国では小・中等教育カリキュラムでコーディング教育が義務化され、人工知能デジタル教科書が使用される予定であることから、関連する多くのサービスが披露されていました。
国語、英語、数学などの個別科目ソリューションはもちろん、生活記録簿やライティング、自習、進路指導、映像学習など、教師の業務領域全般に技術を取り入れ、現場ですぐに活用できる様々なサービスが目を引きました。特にこの部分では、スタートアップの躍進が目立っていました。デザインツールサービス「Miricanvas(ミリキャンバス」のブースをフェアで見ることができました。
Miricanvasは、誰でも簡単に印刷物や広報物、映像などを作成できるサービスで、熟練した技能が必要だった映像、写真編集プログラムの業務を比較的迅速かつ簡単に行うことができ、比較的よく使われています。現在、シリーズA投資を受けた状態で、昨年時点で累計ユーザー数は500万人に達しました。
他にも科学、体育、安全、環境教育など様々な教育にVRベースの体験型ソリューションを取り入れたサービスも、多くの来場者が体験していました。
最近、韓国では若い世代の「文解力(文章を読んで理解し、活用する能力)」をめぐる論争について報道されており、関連するテーマへの関心が高まっていますが、今回のフェアでもライティングやそれに関連するソリューションが紹介されていました。文章添削AIソリューション「KEEwiT(キーウィット)」と、生成型AIのフィードバックからデジタル文集の発行までオールインワンで可能な「Jajakjajak(チャジャクチャジャク)」の2つです。
先生はより便利かつ効率的に文章を作成し、生徒が文章を全て書くと、AIが分析した結果に基づいて語彙や文法、構造、文の脈絡、論調、調子などを総合的に評価し、文章の添削を行ってくれるサービスでした。個人的な考えですが、できれば私も使いたいソリューションでした。
ユニバーサル学習設計+テック=?
ユニバーサル学習設計(Universal Design for Learning)は、主に特殊教育で用いられる概念で、同じものは同じ、違うものは違う、障害や学習レベル、能力や背景に関係なく、誰でも簡単に参加できる学習環境を整えなければならないという考え方です。新型コロナウイルスの流行で人々の日常が変わり、生徒も例外ではありませんでした。
生徒、そして教師たちは、非対面で授業を行うことにより様々な不便を経験しましたが、その中でも特に聴覚障害がある生徒は学習に多くの困難を抱えていたといいます。
今回のフェアでは、AIをはじめとする様々な技術が紹介されていましたが、聴覚、視覚などの身体的障害がある学習者や知的障害を持つ学習者のユニバーサル学習を支援するサービスはほとんどありませんでした。唯一、イーロン・マスク氏が50億を投資した基礎教育スタートアップ「Enuma(エヌマ)」が小さなブースを出しており、それ以外は障害のある生徒のための補助器具を展示するブースでした。
enumaの事例と、最近10年間で韓国で障害を持つ乳幼児の数が2倍に増加したという報道を考えると、障害がある生徒のためのエドテックソリューションが韓国や世界で市場規模が大きくなっているのに対し、韓国で開発されている特殊教育関連のソリューションは不足していると感じました。
日本も2022年のNHKの報道によると、特別支援学校(韓国の特殊学級)の教育環境(教室、教師の数など)は非常に劣悪です。残念ながら、韓国の状況もあまり変わりありません。
今回のフェアのテーマは、エドテックを通じた教育改革でした。フェアを振り返って、私が学校に通っていた頃と多くの部分が変わっていると実感しました。 エドテックの目指す方向が質の高い教育を越え、既存の教育で死角に入ってしまっている生徒たちに役立つ要素をもう少し考慮して発展していってほしいと願っています。
誰にでも教育の機会は均等で、平等であるべきだからです。
来年はより良いエドテックソリューションが登場することに期待して…