目次
韓国企業が組織文化を改善する理由
✔️Microsoftの今までで一番誇らしい瞬間
2014年2月5日、Microsoftのサティア・ナデラ新代表取締役(CEO)の就任式の日に撮られたこの写真は、世界120か国、22万1,000人あまりのMicrosoft役職員に「今までで一番誇らしい瞬間」として知られています。
WindowsやMS officeなど、事実上市場独占企業だったにもかかわらず、変化に適応できなかったと批判されて墜落していたMicrosoft(MS)はこの日の就任をきっかけに、MSは果敢に窓(Windows)を破って雲(Cloud)に乗りました。その結果、2014年に1株当たり37.16ドルだった株価は、12月18日現在は244.69ドルで約6.6倍上昇したこととなりました。
クラウドサービスのAzeur、生産性ソリューションMicrosoft 365などビジネスモデルの変化も目立ちましたが、サティア・ナデラCEOが試みた組織文化革新がMSの最も大きな変化の1つとして注目されました。
自らを「文化キュレーター」と定義するナデラCEOは、MSの官僚的で競争的だった文化を、協力的で開放的な文化に組織を変化させました。アメリカのビジネス雑誌Fortune誌では、2019年にサティア・ナデラCEOを「今年のビジネスマン」に選定しました。
✔なぜ良い組織文化が必要なのか?
「就職する企業について最も気になる点」アンケート結果<出典:JOBKOREA>
組織文化は特に若い世代にとって就職や転職において給与と同じくらい重要な点とされています。実際に今年4月27日、韓国の就職プラットフォーム「JOBKOREA」では1990年代半ばから2000年代初めに生まれた大学生、および就活生1,923人を対象に<就職する企業について最も気になる点>について調査しましたが、回答者の半分が「組織文化と雰囲気」が就職に影響を与えると挙げました。
また、別の就職プラットフォーム「saramin」が企業1,124社を対象に調査した内容によると、企業の84.7%が1年以内に早期退社した職員がいると答えました。そしてこの内容は15~29歳の青年たちの約65%が最初の職場をすぐに辞めたという統計庁の調査とも一致します。
数ヶ月前、 韓国では「神の職場」と呼ばれる「韓国取引所」(金融取引所)の若い職員が5人も退社するということがありました。 普段は1年に1~2人程度の退社率でしたが、今年はその比率が高くなったのです。
このように良い組織文化を作ることは、人材の確保だけでなく人材流出を防ぐために必ず必要です。有能な人材が企業に大きな成長をもたらすくらいに、組織文化を改善することはお金になると見ることができます。
韓国ではこのような現象を「大退社時代」と呼ばれるほど青年退社率が非常に高いです。このような状況の中で、企業はなぜ組織文化を改善しようとし続けているのでしょうか。そして、組織文化を改善するにはどうすればよいのでしょうか。
✔組織文化が良くない企業は悪い企業なのか?
一般的に、組織文化の良い企業は仕事のやり方で多くの違いが見られます。企業の未来のビジョンと明確な戦略目標を設定し、業務方式(勤務形態、相互尊重、自律性、水平的な業務構造など)と補償方式(福祉制度、インセンティブ、成果給など)でメンバーとともに成長していることを感じさせます。
では、メンバーの成長を重視するよりも企業の実績だけを考える企業は悪い企業なのでしょうか。
少し質問を変えてみると、組織文化が悪い企業は成長しない企業なのでしょうか。そうではないようです。
少し憂鬱な話ですが、韓国の多くの企業は所属メンバーから組織文化とリーダーシップがめちゃくちゃだと批判される場合が結構あります。それにもかかわらず、売上は急成長している企業もあります。このような事例を見ると、良い組織文化が必ずしも売上に影響を与えるとは限りません。
組織文化とリーダーシップが企業の売上とは相関関係がないという話は、その組織メンバーにとっては本当に絶望的な話です。 「悪い」の基準を売上に置くと、良くない組織文化が必ずしも悪いということだけではないからです。
なぜそれでも企業は組織文化の革新を唱え続けているのでしょうか。
✔韓国の産業構造の変化
10年前(2012年)の企業時価総額順位(左)と2022年の企業時価総額順位(右)
組織文化の革新を語る根本的な原因を考えてみると、韓国産業の構造的な変化が理由だと推測できます。
わずか10年前までは韓国の主要大手企業は第2次産業(製造業、工業中心)基盤のビジネスをしていました。企業の時価総額だけを見ても、10年前は半導体、SK telecom(日本におけるauに相当する)、S-Oilのような石油化学企業、韓国電力の他にも金融持株会社が上位圏を占めていました。
これまでの韓国は製造業中心の産業構造を持っていました。そのため、人件費が大きな割合を占めることになります。これにより、企業と製品の競争力はやがて時間当たりの生産量を増やし、労働者を酷使させてコストを下げ、メンバーの実績に迫ることで結果を生み出すことに直結します。
しかし、10年が過ぎた2022年12月の時価総額上位企業を見ると、企業の名前が大きく変更されました。KakaoとNAVERを筆頭にしたIT企業、CELL TRIONや Samsung Biologicsのようなバイオ企業がランキングにあがりました。
現在韓国で注目されている企業は、コンテンツソフトウェアサービス中心のビジネスをする企業です。しかし、このような産業では、時間に対する効率よりもメンバーの能力と創意性がより重要視されます。
そして、メンバーの個々の能力と創意性を尊重する企業であるほど、企業の成果が高いです。組織文化が整っているGoogleやMicrosoft、NETFLIXなどの企業が成長し続けており、それらをベンチマーキングしようとしているのを見れば確実にわかります。
✔聞いて、感じて、考えてください
組織文化改善の最初のステップは、組織メンバーの意見をよく聞くことです。
いまだに韓国の多くの企業は、メンバーの意見が企業の意思決定に反映されない場合が多いです。特に役職が低い場合には、いくら斬新なアイデアであっても上の人によって意見が排除されたり、反映されても自分ではなく他人の実績として処理されることが多いです。意見が反映されていなくても、なぜ反映されなかったのか合理的な説明が裏付けられているならば、そのまま納得するでしょう。
よく聞くということは、組織メンバーの意見に耳を傾け、それを尊重しなければならないということです。本当にコミュニケーションを取りたい組織なら「どれだけ頻繁にコミュニケーションをとるのか」ではなく、「どのくらいコミュニケーションをする姿勢ができているのか」が重要です。
アンケートや多様なコミュニケーション窓口を通じて随時職員の意見を聞いても、それを受け入れる人の聞く姿勢ができていなければ何の意味もありません。むしろ忙しい職員に不必要な不快感を与えるだけです。
2番目にすべきことは、組織のメンバーがなぜそのような意見を出したのかを考えることです。
メンバーが意見を出す理由は人の問題かもしれませんし、構造上の問題かもしれません。業務方法や補償による問題かもしれません。メンバーの意見はそれぞれの状況と背景が異なるため、「なぜそのような意見を出したのか」という深い洞察が必要です。
フィードバックを受けるかどうかを判断するのは経営陣の判断ですが、重要なのは単に意見を聞いて反応することではなく、十分な洞察の過程が必要だということです。
組織文化の改善のために十分な洞察が終わったら、最後にすべきことは今後何をすべきか考えて実践することです。
洞察した結果に基づいて、組織文化を改善するためのプランを準備する必要があります。組織文化は、組織メンバー全員が共感できる目標を設定し、その目標をともに達成するためのいろいろな環境を設けることです。組織文化を改善することも同様です。みんなが共感できる改善案に基づいて、その過程を組織メンバーとともに共有し実践する必要があります。
特にこのような実践策は、各組織のリーダークラスのメンバーに積極的に適用し実施されなければなりません。まだ韓国の多くの企業がトップダウン式の文化に基づいてビジネスをしているため、韓国で組織文化を作るのは組織の大多数である一般職員ではなくごく少数の組織リーダーたちだからです。
✔最後に
数ヶ月前にアメリカのある20代のエンジニアから始まった静かな退社(Quiet quitting)のトレンドは、海外では「パンデミックによる疲労感と挫折感のため」と話されていますが、韓国では少しその意味が異なるようです。
アメリカよりも構造的に硬直した韓国の組織文化の中で「静かな退社」は、MZ世代の変化した考え方という意見もありますが、社会人として無責任な態度という批判も同時に起きています。
私は、このようなトレンドが過去にとらわれて変化しない組織と硬直した組織文化に対する一種の放棄宣言であると感じています。「私は組織文化を変えることができないので、諦める」という多少断念したような自嘲的なトレンドは、韓国社会に多くの考えるべきことを投げかけてくれます。
積極的な退社を選択する人も、静かな退社を選択する人も、私たちは非難することはできません。退社を選択した人も最初は組織で成長し補償を受けたかった人材だったでしょうし、静かな退社を選択する人も現在組織を黙々と支えている人材だからです。
社会の変化はますます速くなります。今は追いつくことで精一杯なほど社会はより急速に変化しています。そのため、組織は絶えず組織文化に関する質問に直面しています。今日変化した組織文化の革新が1か月も過ぎれば過去のものとしてからかわれる今日この頃です。
このような状況の中で組織文化を悩む人々なら、一時的なイベント性の組織文化の改編ではなく、永続的な組織文化革新が可能な組織内の様々な環境を設けることが最も重要な目標とならなければいけないでしょう。
原文:조직문화, 그기.. 돈이 됩니까? (brunch.co.kr)
トップキャプチャー:Microsoftのサティア・ナデラCEO就任式写真 ビル・ゲイツ創業者(左)、サティア・ナデラ現MS CEO(中央)、スティーブ・バルマー前MS CEO<出典:MS YouTubeのキャプチャ>