グローバルトップのストリーミングプラットフォームはなぜ韓国を離れるしかなかったのか? 

 この記事を先に読んで、以下の記事を読むと、より深く理解できます! 

KORIT韓国だけ低画質で動画を見る?「ネットワーク使用料」 問題総まとめ

はじめに

2023年12月6日、結局、Amazon.comの子会社である、ビデオストリーミングサービス「Twitch(ツイッチ)」のCEOは、韓国内のサービスの完全撤退を発表しました。2024年2月27日付でTwitch本社は韓国での関連事業および有料サービスの運営終了を発表したのです。

すでに2022年、Twitchは韓国内の動画画質を既存の1080p(FHD)から 720p(HD)画質に制限することを発表し、大きな論争となり、当時から、ネットワーク使用料については時限爆弾のように結局はいつか必ず爆発する問題だと誰もが予想していました。そして2023年末、実際にそれは起こりました。

2023年11月現在、韓国のビデオストリーミング市場シェアの52%を占めているTwitchは、なぜ韓国地域の運営を終了することになったのでしょうか。まず、TwitchのCEOは 「韓国の莫大なネットワーク使用料」を原因として挙げました。韓国のネットワーク使用料は海外に比べて10倍ほど高いといいます

もちろん、TwitchのCEOの言葉を100%信用することはできません。ネットワーク使用料には、企業間の機密保持契約(NDA)があり、正確に確認できないからです。しかし、2022年10月の韓国国内証券会社のビデオストリーミング産業関連アナリストレポートによると、「Twitchはすでに年間500億ウォン(約54.7億円)レベルのネットワーク使用料を支払っており、現在のトラフィック基準で900億ウォン(約98.5億円)の費用が予想される」と分析しています。

実際にTwitchの2022年の申告売上は21億ウォン(約2.3億円)に過ぎませんでしたが、別の韓国内証券会社の分析によると、グローバルでの売上に対して韓国の配信視聴時間を適用すると約2,000億ウォン(約220億円)の売上が発生したと推定しています。これを基に推論してみると、売上の約40~50%程度を通信会社にネットワーク使用料として支払っていることになります。

実はTwitchは日本でもゲーム、アニメ、Vtuberなどのサブカルチャーを中心に消費されているプラットフォームです。韓国の場合も方向性はそれほど変わりません。そう考えると、Twitchの韓国運営終了は、この分野に興味がない人にとっては重要な問題ではないのかもしれません。 

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しかし、最近韓国でもVtuberベースのアイドルグループが音源チャート上位に登場するなど、サブカルチャーに対する拒否感がなくなり、ソロ配信ストリーミング市場がさらに拡大、この問題は市場全体に影響を与えています。

韓国内初のバーチャルアイドル、異世界アイドル

今日お話しする内容は、なぜ韓国でこの問題が大きく話題になったのか、そして悲しいですが、韓国の通信事業者の現実と今後この問題がどのような影響を与えるのかについて、メディアの視点とそれによる私の考えをまとめてみたいと思います。 

ネットワーク使用料

まず、ネットワーク使用料は海外のコンテンツ事業者(CP)へ、韓国でサービスを利用する各国との通信事業者間の階級(Tier)差によって発生します。韓国の通信事業者の階級が海外の通信事業者に比べて低いことから発生する接続料、つまりトランジット(Transit)費用をコンテンツ事業者(CP)にネットワーク使用料の名目で請求するのです。一般的にTierが低い事業者が高い事業者に費用を支払う形式です。 

韓国はアメリカや日本に比べてTierが低く、特にコロナ以降、OTTをはじめとする海外の大容量コンテンツを韓国ユーザーが消費するようになり、このコストは指数関数的に増加しました。 

この問題で発生した法的紛争が、2020年4月に起こったNetflixと韓国の通信事業者であるSK Broadband(SKB)のネットワーク使用料に関する訴訟でした。Netflixの1審敗訴後、韓国政治圏の「ネットワーク利用料法」に対する立法の動きとネットワーク利用料に対する否定的な世論により、結局2023年9月18日、訴訟の取り下げと和解を発表し、紛争は現在は収束した状況です。

これまで良くしていれば

 しかし、Twitchの韓国運営終了発表後、再びネットワーク使用料に関する様々な報道が続く中、最近韓国内で通信事業者のイメージが非常に悪いことが、今回ネットワーク使用料問題が話題になった原因の一つとして挙げられています。 

韓国は2019年4月3日、世界初の5G通信サービスを商用化した国として知られていますが、実のところ5G通信の品質とインフラ構築は疎かになっており、国民から多くの非難を受けています。既存の4G(LTE)に比べて約20倍速い通信ネットワークをいつでも利用できるというように宣伝していましたが、実際はそうではありませんでした。

通信事業者が本当の5G速度といっていた技術標準目標速度20Gbps(LTE比20倍)はおろか、LTE周波数帯(約2~4GHz)の高い部分を活用して形式上の5Gサービスを開始し、料金はLTE比約20~50%高い値段を支払うようにしたのです。 

この問題は2023年5月、5Gの速度を誇張して広告したとして通信事業者に336億ウォン(約36.8億円)の課徴金が課され、物議を醸しました。一方、通信3社は2021年から今年に至るまで、継続して創業以来最大の業績を更新する様子を見せ、消費者から非難を受けました。

同年7月には、科学技術情報通信部が本物の5G周波数である28GHz帯を「ネットワーク投資をしない」という理由で通信会社から回収し、「5Gは偽物だったのか」という声と共に、通信会社に対する信頼度は一気に低下しました。 

さらに最近では、世界初の6G商用化のために4G、5Gよりも多くの投資が必要という記事がマスコミに掲載され、世論は通信会社にとって最悪の状況となりました。このような影響により、ネットワーク使用料問題においても、自国の通信会社ではなく海外のコンテンツ事業者の肩を持つきっかけになったと推測できます。

そろそろ投資してもいいんじゃない?

 第二に、今回のTwitch韓国撤退におけるネットワーク使用料問題の核心は、通信会社が現在の低いティア(Tier 2)を維持し続けているために発生しているということです。韓国内の政治圏では一時期、海外コンテンツ事業者を対象にネットワーク使用料を義務的に課すなどの法案が発議されました。しかし世論、またアメリカなどのFTA締結国間では、相互主義の原則により、韓国企業が被害を受けることが懸念されるため、現在は法案は成立せず滞留中です。

しかし、ネットワーク使用料問題が完全に解決されない場合、長期的に韓国で大容量コンテンツを提供する企業のグローバル成長にも悪影響を及ぼす可能性があります 

例えば、ゲームや4K以上の映像、VR、AR、メタバースなど大容量のトラフィックが発生するコンテンツの場合、ネットワーク使用料が多く発生するため、そのコンテンツを基盤とするスタートアップは、コストを削減するために海外に移転するという状況が発生する可能性があるのです。 

実際、韓国OTT「WATCHA(ワッチャ)」のCEOは2019年のある討論会で、「板橋(パンギョ)を拠点にVR事業をしていた先輩が結局シリコンバレーに渡った」という話をして、韓国のネットワーク使用料の現実を主張しました。その当時が2019年なので、コロナパンデミックが過ぎた現在はもっと状況が悪化しているかもしれません。

結論

 現在、NaverとTwitchのライバルであるAfreecaTV(アフリカTV)をはじめとする多くの韓国メディア事業者は、映像視聴時に「グリッドシステム(Grid System、利用者のPC性能と有・無線インターネットネットワークを互いに共有して活用するシステム)」を適用しています。これにより、ネットワーク使用料を節約することもできますし、企業のインフラ投資費用の一部を節約することができるのです。しかし、Twitchはこのような選択をせず、多くのネットワーク使用料を支払い、最終的に事業撤退を選択しました。

なぜTwitchはそうした選択をしなかったのでしょうか?現実的な理由として、グリッドシステムを使用するには別途のプログラムをインストールする必要があり、これはグローバル事業者であるTwitchにとってはグローバルスタンダードに合わないためでしょう。 より本質的な理由としては、ユーザーがそれ(グリッドシステム)を望んでいないからです。 

ネットワーク使用料の問題は、TwitchやNetflixのような特定の巨大企業だけの問題ではありません。ネットワーク使用料の問題の本質は、グローバル通信事業者間の階級(Tier)の違いによって発生した問題であるためです。韓国内の通信会社がアメリカのAT&T、日本のNTTdocomoのようにTier 1に上がらない限り、このような問題は時間が経てばまた発生せざるを得ません。

「5Gに続き、6G移動通信成功するには…政府の政策的支援が切実」

これまで韓国の通信会社は営業秘密という理由で、ネットワーク使用料に関する実際の統計や自社のインフラ投資に関する詳細な部分を国民に非公開にして、マスコミには黙秘に徹してきました。韓国では通信は民間の領域ですが、国家を構成する主要なインフラの一つであるため、「基幹通信事業者」と呼ばれています。

つまり、民間企業ではあるものの、政府の支援を受けて成長している産業であるということでもあります。しかし、受け取っているものに対し、Tierを上昇させることができる海底ケーブルなどのインフラ投資は収益性が低いからと積極的な投資をせずにネットワーク使用料を支払わせるという行為を繰り返しています。 

長期的に主要先進国のレベルに合った通信ネットワークインフラ投資が後押しされてこそ、ビッグデータ、AI、コンテンツ、メタバース、VRなど、現在の韓国の主要成長産業がコストを気にせず成長できる基盤となり、海外において関連企業が韓国に投資を行うのにも良い影響を与えるでしょう。