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介護ロボットが韓国社会に問いかけること

2025年、超高齢社会に突入する大韓民国
2025年、韓国は超高齢社会に突入します。65歳以上の人口が全体の20%を占めており、約1,000万人が高齢者人口に該当するという、この変化は、単なる人口統計的変化にとどまりません。これは国家経済はもちろん社会サービス、個人の生活の質全般に大きな影響を与えざるを得ません。
特に高齢者人口の急激な増加、それに伴う介護人材の不足、高齢者の孤独死、健康管理などは、私たちの社会が超高齢社会に突入する中で、解決すべき重要な課題として浮上しています。そういった状況の中で、代案として発展した介護ロボット産業は、コロナ以降、高齢化による問題を解決する核心技術として注目されています。
介護ロボットは高齢者の生活パターンをモニタリングするだけでなく、緊急事態が発生した際に、即時に保護者に通知する機能、服薬アラームなどを提供しています。単に危険を感知する役割を超え、介護ロボットは高齢者と会話を交わし、感情的な交流を行い、情緒的な安定感を提供することにも大きな影響を与えており、高齢者にとっての新しい話し相手としての役割を果たしています。
介護ロボットに関する論争

<画像作成:chatGPT, 出典:hankyung.com>
そのような中で、「男性高齢者10人中6人が介護ロボットと性的な会話を試みる」というタイトルの記事がオンラインコミュニティで紹介され、話題を呼ぶとともに論争を引き起こしました。この記事は、介護ロボットの予期しない活用事例により、技術の倫理的ジレンマと高齢者の性的欲求という禁忌のテーマを社会的議論の中心に据えました。
この内容に関しては多くの人々の間で意見が分かれ、さらにいくらかの不快感を呼びました。老人の性的欲求はなぜ禁忌視されるのか?これは単に文化的な不快感の問題でしょうか、それとも社会全体の加齢に対する視線の限界なのでしょうか?介護ロボットは孤独と孤立を解消するための技術でしたが、その過程で予期しない倫理的ジレンマとデータ収集、それに伴う個人のプライバシー問題が議論され始めました。
グローバル介護ロボット市場と韓国の対応
このような論争の中でも、介護ロボット市場は世界的に急速に成長しています。2020年基準で約7億5000万ドル(約1160億円)規模だったグローバル介護ロボット市場は2030年に約50億ドル(約7800億円)に拡大すると見込まれ、毎年20%以上の高い成長が予測されています。
高齢者を対象としたシルバー産業全体で見ると、韓国では現在約70兆ウォン(約7.6兆円)の規模があり、2030年までに約168兆ウォン(約18.2兆円)に達すると見込まれています。そして、介護ロボットはこの市場の重要な軸を担っています。

介護ロボット「HYODOL(ヒョドル)」
韓国の代表的な介護ロボットとしてはHYODOL(ヒョドル)があります。HYODOLは感情的な交流と生活支援に特化したAI介護ロボットとして、現在約11,000人の高齢者に使用されています。単なる技術的な補助ではなく高齢者の孤立を解消し、情緒的な安定感を提供するための製品として紹介されているのです。
韓国と日本、介護ロボットを見つめる視点の違い

日本の理化学研究所が開発した研究用ロボットプラットフォーム「ROBEAR(ロベア)」
<出典:technologyreview.kr>
韓国よりも早く超高齢化社会に突入した日本は、20年以上にわたり高齢者のケアのためのロボットを継続的に開発してきました。2018年までに日本政府が介護ロボットの研究開発に投資した金額はなんと3億ドル(約467億円)を超えます。
日本の代表的な介護ロボットは、身体的な行動サポートと管理の効率性に重点を置いているのに対し、韓国は高齢者の感情的孤立の解消と社会的交流を中心に技術を発展させています。二国のアプローチは高齢化問題を解決しようとする技術的な方向性を示すと同時に、介護ロボットの社会的役割についての異なる視点を反映しています。
どこまでを許可するのか?
介護ロボットが超高齢社会に備える革新的なツールとして注目されていることは事実です。しかし技術の発展が必ず肯定的な方向に進むという保証はできないこともまた事実です。これまで介護スタッフ等、介護人材が直接取り組んできたことが、少しずつ代替されていく中で、技術と人間の境界、そしてデータに関する個人情報保護の問題に新たな視点でアプローチすることとなりました。
介護ロボットは高齢者の行動データをリアルタイムで収集、分析して、パーソナライズされたサービスを提供しています。これは健康状態のモニタリング、服薬通知、感情的な共感などで大きな利点を提供しますが、同時に深刻な倫理的ジレンマもあります。

<出典:news1>
はたまた、企業が製品を利用するユーザーのデータパターンを分析することは正常な行為である、と見なすこともできます。しかし、発話分析を通じて得られた会話内容、好み、生活パターンも個人情報の一部であるため、そういった個人情報が広く公開されることが正しいのかどうかについても議論されるべきでしょう。そして介護ロボットが介護ツールを超えて、高齢者の日常を監視する一つのシステムに変質してはなりません。
パーソナライズされたサービスの基盤となるデータは、本質的に繊細なものとして認識されています。それに従って非常に精密に扱わなくてはならないのです。介護ロボットが収集したデータが悪用されたり漏洩した場合、これは単純なプライバシーの侵害を超えて、高齢者の身体的および感情的な安全にも脅威となる可能性があります。技術のためのデータ活用方法に関して透明性と責任が保証されない場合、技術は信頼を失い、社会的反感を買う危険性があります。
また、高齢者の性欲というテーマも、今なお社会的なタブーや不快感の対象と見なされており、管理や教育、制御の対象として認識されることが多いです。しかし、人間の性的欲求は特定の年齢層に限定されず、人生の重要な一部として受け入れられるべきものです。このような事実を否定的な視線で見るよりも、これをきっかけに高齢者の性的欲求を尊重し、それを健康的に表現できる環境を形作っていくための議論をしなくてはなりません。
高齢者の生活を尊重する技術と倫理の調和

<出典:ニューシーランド産マヌカハニー「Comvita(コンビタ)」ブログ>
介護ロボットの意図されていなかった使用方法が私たちの社会に投げかけた問題は、かなりタイムリーかつ、重要なものでした。今私たちは単純に先端技術を通じて高齢化問題を解決するだけでなく、技術が人間の生活にどのように貢献できるかの方向性を考えなければならないタイミングであるためです。
このロボットが提供する利点は明らかです。高齢者の感情的孤立の解消、健康管理、生活支援などは超高齢社会の重要な問題を解決するのに役立つでしょう。しかし、この過程で技術が人間性を代替したり侵害したりしないように、倫理的な設計と透明性のあるデータ管理が不可欠です。
そして最も重要なのは、技術の目的が人間のためでなければならないという点です。技術は高齢者の生活を豊かにし、尊厳を守る方向に発展しなければなりません。人間の尊厳を傷つけることなく、生活の質を高める方向に発展するためには、技術的な成果だけでは不十分です。
これを実現するためには、高齢者の欲求、特に性的欲求や感情的要求を禁忌視したり抑圧したりするのではなく、健康的に受け入れ、支援するために、倫理的な議論、社会的な受容、そして政策的な支援が共に行われるとき、介護ロボットは単なる道具を超えて、人間と技術の調和のとれた共存を実現する鍵となるでしょう。
そうしてようやく技術は単なる問題解決のツールを超え、私たちの価値観や生き方についての問いを投げかけ、私たちはついに人間らしい技術の真の価値を見つけることができるでしょう。