投資の厳寒期に黒字を出すスタートアップの公式

はじめに

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の世界経済は、ウクライナ戦争や世界的な金利上昇基調により、不確実性と変動性が高い状況にあります。特に韓国は高金利基調と米中貿易紛争などで15ヶ月連続で貿易収支が赤字を記録し、まさに四面楚歌の状況に陥りました。

こうした冷え込んだ経済状況により、成長性さえ認められれば赤字企業であっても多くの投資を受けていたスタートアップが、今は窮地に追い込まれています。スタートアップの代表的な資金調達手段だったベンチャーキャピタルは財布の紐を締めました。

実際、韓国・中小ベンチャー企業部(省)の資料によると、今年上半期のベンチャー投資額は4兆4,447億ウォン(約4,950億5,000万円)で、昨年同期(7兆6,442億ウォン、約8,516億7,000万円)より約42%減少しました。追い打ちをかけるように高金利基調が維持され、現金の流動性が円滑でないスタートアップは大規模なリストラを行ったり、廃業に至っています。

実際、「超新鮮な豚肉」を掲げ、かつて企業価値が2,000億ウォン(約222億7,000万円)に達した「正肉角(チョンユクカク)」は、昨年末にシリーズD投資を受けたにもかかわらず、多くの負債によりオフィスを担保に資金調達をしなければならないほど苦境に陥り、エドテック企業の「CLASS101(クラス101)」、そして「今日の刺身」は現在、完全な債務超過に陥り、経営難となっています。また、有名クリエイターが所属しているMCN(マルチチャンネルネットワーク)1位の企業「SANDBOX(サンドボックス)」も赤字を抱え、昨年末にリストラを行いました。

これまでほとんどのスタートアップは、グーグル、アマゾン、フェイスブックの成功戦略の一つとして語られるブリッツスケーリング(事業初期から多くの資本金の継続的な投資を受け、攻撃的な戦略で事業を拡大していく経営戦略)を試みましたが、今のような高金利不況期には適切な経営戦略ではないかもしれません。

しかし、このような困難の中でも内実を固め、黒字転換に成功したり、継続的に黒字を出しているスタートアップがあります。今日はこのような企業がどのように市場で生き残っているのか、企業の経営戦略を見て、黒字を出す企業の特徴を探ってみたいと思います。

持っている強みを活かす

スタートアップが投資の酷寒期に耐えながら変化した最も大きな姿は、成長よりも収益に集中し始めたことです。これまでは成長によって企業の規模を拡大してきましたが、赤字幅を大きくする新規事業は思い切って整理し、企業が最も得意とする本質に集中するようになりました。

例えば、昨年下半期にリストラを通じて固定費を削減した才能共有プラットフォーム「Tal-ing(タリング)」は、既存のB2C中心の教育プログラムと共に出版業界にも参入するなど、教育コンテンツプラットフォームとしての地位を確立しようとしましたが、結果的に昨年45億ウォン(約5億円)の営業赤字を記録しました。

しかし、構造調整後、B2Bベースの職務教育を開始し、さらに既存の教育プログラムを活用した運動や趣味、自己啓発などの講義を他の企業の社内福利厚生プログラムと連携して提携を結ぶなど、既に企業が持っている強みをベースにビジネスの質的成長を図りました。

その結果、昨年45億ウォン(約5億円)の営業赤字を記録したTal-ingは、今年6月、月営業利益が1億ウォン(約1,100万円)を突破し、創業以来、最大の月営業利益を達成しました。Tal-ingの収益モデルについては、以前から持続可能性について疑問がありましたが、持っている強みを活かし、新しいビジネスを模索した良い事例です。

AI技術の活用

衣料品Eコマースプラットフォームである「A-bly(エイブリー)」とブランド品コマースプラットフォーム「TRENBE(トレンビー)」は、AIベースのパーソナライズ推薦アルゴリズムを効率化し、売上と収益を高め、黒字転換に成功した良い事例です。リストラで人件費を削減するのではなく、技術を通じて赤字を克服した事例で、両社とも上半期に損益分岐点(BEP)を達成し、今年上半期には黒字転換に成功しました。

 A-blyの場合、昨年、営業赤字が700億ウォン(約77億9,000万円)に達しましたが、独自開発のパーソナライズ推薦アルゴリズムは今年3月から毎月営業利益が2倍に成長し、4ヶ月連続で黒字を記録しています。A-blyはプレスリリースを通じ、黒字転換の最大の理由として、自社開発したAIベースのパーソナライズ推薦アルゴリズムを挙げています。

ユーザーの好みに合った商品と販売者を積極的に繋ぐことで、売上だけでなく、月間ユーザー数(MAU)と会員数も増加し、収益の持続性も認められています。特にファッションの閑散期と呼ばれる6月に黒字を達成したことで、今後の成長がさらに期待されています。

 TRENBEは、中古ブランド品コマースという規模の小さい市場で黒字転換に成功した事例と言えます。これまで全世界で運営していた物流システムを自動化し、AIを基盤とした純正品とコピー商品の鑑定(認証)機能により、鑑定人の人員を最小限に抑えることで固定費を削減することができました。

また、マーケティングコストを削減する代わりに、内部顧客に興味のある商品のおすすめ通知を送信したり、価格が下落した場合にポップアップメッセージを送るなど、カスタマイズしたCRM(顧客関係管理)により、コストの効率化を図ることができました。

 私たちは投資を受けない

スタートアップでありながら、投資を受けずに企業の力を育て続け、規模を拡大してきたスタートアップもあります。韓国人に有名なお小遣い稼ぎアプリ「Cash Walk(キャッシュワーク)」を運営する「Nudge Healthcare(ナッジヘルスケア)」が代表事例です。 

Nudge Healthcareは創業以来、投資金を一銭も受け取らないスタートアップとして知られていますが、同社が作ったCash Walkは2千万件のダウンロードを記録し、韓国人の3人に1人が使うほど人気のアプリサービスで、月間ユーザー数は600万人に達します。 

新型コロナのパンデミック以降、多くのデジタルヘルスケア企業が事業の持続性に疑問を抱くことが多かったです。しかし、この企業はむしろ、ウォーキングを通じて病気を予防することにマーケティングポイントを置き、安定的な経営と明確な収益モデル、北米や欧州などの海外サービスの立ち上げを通じて、2022年に約793億ウォン(約88億3,000万円)の売上と106億ウォン(約11億8,000万円)の営業利益を達成しました。前年比約40%、営業利益は前年比12%増となり、成長を加速化させています。 

計画された赤字はもうやめだ

 2020年前後、本当に多くのスタートアップが市場に登場したとき、最も多く登場した用語の一つは「計画された赤字」という言葉でした。数年前に米国のNASDAQに上場した韓国のコマース企業「Coupang(クーパン)」がよく使っていて特に有名になりました。これまでスタートアップは、将来の成長のために即座の収益性は一旦置いておき、市場シェアを確保してきました。 

スタートアップと負債は切っても切れない関係です。適切なレバレッジはビジネスを短期間で成長させることができるからです。しかし、今は赤字を計画するには、市場状況があまりにも冷え込んでいます。

前述した黒字転換に成功した企業は、それぞれの強みを基にビジネスの量的成長ではなく、質的成長を通じて経営革新を追求しました。  

逆に、最初に挙げた「今日の刺身」のケースは、「計画された赤字」を唱えるも、流動負債を管理できず、経営に必要な資本金が足りなかったために起きた惨事です。これらの事例を振り返ってみると、逆説的に言えば、投資の厳寒期である今こそ、起業家たちは経営者としての能力を評価される絶好の機会だと言えます。

良いアイデアと良い技術は、投資金を確保するための必須要素です。しかし、経営の持続性を担保する必須要素ではありません。特に投資の活況期には、良いアイデアと技術によって一定規模まで企業を成長させ、大企業へのM&Aを狙って起業するケースも多かったです。

しかし、今は起業家が企業経営者としてどれだけ優れた能力があるかが評価される時代になりました。そして、この困難を乗り越えた企業は、再び好景気が訪れた時に、より大きな成功を収めると確信しています。