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NVIDIAに挑戦する韓国の半導体スタートアップ
2024年、半導体市場が大激変
2024年現在、世界の半導体市場は未曾有の激動期を迎えています。NVIDIA(エヌビディア)が人工知能(AI)及び高性能コンピューティング(HPC)の需要に伴い、高帯域幅メモリ(HBM)の需給を拡大し始めた中、サムスン電子は、競争相手であるSKハイニックスに比べてHBM分野で競争力をやや失ったとの評価を受け、最近、半導体部門長が第3四半期の業績発表後に謝罪のコメントを発表したりもしました。実際、その結果がそのまま株価に反映されもしました。
サムスン電子
SKハイ二クス
アメリカや中国をはじめ、世界は今、小さなチップの一つである半導体に命運を賭けています。AIと半導体技術は、21世紀版石油と言われており、こうした中、合理的な性能と電力効率性、価格などを掲げてニッチ市場を攻略している韓国のAI半導体スタートアップがあります。これらはNVIDIAが独占していた市場に新しい風を吹き込んでいます。今日は韓国の代表的な半導体スタートアップの近況をまとめてみたいと思います。
FITした低消費電力・高効率チップ、DEEPX
CES2024でイノベーション賞を受賞したDEEPX(ディープエックス)は、2018年に創業し、現在までエッジAI(=オンデバイスAI、既存のクラウドシステムではなく、ローカルシステムでデータ処理し、人工知能アルゴリズムを実行するシステムやソリューション)用の半導体ファブレス(チップ設計)企業です。
米Broadcom(ブロードコム)やIBM(アイビーエム)、Cisco Systems(シスコシステムズ)、Apple(アップル)など、様々な企業で設計エンジニアとして活動して得た経験とインサイトを基に、DEEPXは、韓国初のエッジAI応用のための人工知能(AI)技術及びニューラルネットワーク処理装置(NPU)を開発した企業としても知られています。
特にDEEPXが設計した半導体は、使用電力に対するAI演算効率が世界最高水準であることが知られています。それだけ発熱が少なく、スマートフォンやコンピュータ以外にもスマートカー、家電、ロボット、ドローン、カメラシステムなど、各製品のAI特性に合わせて活用できるメリットがあり、使用範囲が広がると予想されています。
今年5月には、約1,100億ウォン(約121億1,000万円)のシリーズC資金調達をし、技術力はもちろん、市場の関心を証明しました。これは韓国のスタートアップ企業の中で今年上半期の資金調達額1位でした。特に今回の投資は、元サムスン電子の社長で、前情報通信部(省)長官であったチン・デジェ氏が設立したVC「Skylake Investment(スカイレイク・インベストメント)」が今回の投資をリードし、DEEPXの2大株主になったことで話題になりました。
現在は、独自に確保している特許と技術力を基に、巨大言語モデル(LLM)をエッジコンピューティング環境でも駆動できるAI半導体の開発にも着手していることが知られており、大きな期待を集めています。
データセンター専用チップ、FURIOSA AI
昨年、LG AI研究院とAI半導体研究に関するパートナーシップを結んで話題になったFURIOSA AI(フュリオサ・エイアイ)は、2017年に創業して以来、データセンターと高性能演算用AI半導体の開発に注力してきたファブレス(半導体設計)企業です。
FURIOSA AIは、特にAI推論に最適化した半導体を重点的に開発しており、これはクラウドでAIを遂行する従来のGPUに比べて電力消費を抑えながら効率的なAI演算を提供できるのが特徴です。
創業者のペク・ジュノCEOは、AMD、サムスン電子メモリ事業部など半導体設計の中核企業で培った経験と技術を基に企業を成長させており、特に最近、第2世代AI半導体レニゲード(RNGD)を公開しました。RNGDは、韓国の主要CSP(クラウドサービスプロバイダ)企業を対象に、従来のGPUに比べて半分の電力で同様の性能を発揮できることをアピールして話題になりました。
特に、今年5月、FURIOSA AIは米シリコンバレーで開催された半導体カンファレンス「ホットチップス2024」でRNGDを公開し、大きな注目を集めました。韓国のファブレス企業がホットチップスのイベントで新製品発表者として選ばれたのは初めてのことでした。
既にシリーズC投資を通じて800億ウォン(約88億円)の資金調達に成功したFURIOSA AIは、LG、サウジアラビアの国営石油企業であるアラムコのようなグローバル企業を顧客として確保しており、今後、AIサーバーとデータセンター市場での優位性を確保するためにさらに競争力を強化するものとみられます。
半導体ユニコーンの誕生、Rebellions
ここまで何度か言及してきたAI半導体ファブレス企業のRebellions(リベリオン)は、韓国のファブレス市場で最も先端を行くスタートアップです。今年8月、SK系列で同じファブレス企業のSAPEON KOREA(サピオンコリア)と合併契約を締結し、ファブレススタートアップ初の「ユニコーン(企業価値評価1兆ウォン、約1,101億2,300万円以上の企業)」になりました。
面白いのは、同じ通信会社であるKTが投資したRebellions、SKテレコム(SKT)とファウンドリー企業のSKハイニックスが株主のSAPEON KOREAがタッグを組んだことです。韓国でインターネット、クラウド、セキュリティカメラ事業など、あちこちで争っているSKTとKTが今回、AI半導体競争の未来を見据えて合併した点が印象的な部分です。
Rebellionsのチップは、前に紹介したFURIOSA AIのチップと比較して、大型AIモデルの推論でも高性能を維持しながら、電力効率が高いという点で差別化を図っています。そのため、自動運転やスマートファクトリーなど、リアルタイムで大容量のデータを迅速に処理しなければならない産業に適用でき、前記の2社よりも汎用性が高く、市場拡大の可能性が高いと言われています。
初期から韓国初のAI半導体「アトム(ATOM)」をKTクラウドデータセンターに供給し、急成長してきたRebellionsは、2024年末にはLLMのような次世代AIアプリケーションを支援する半導体「リベル(REBEL)」の発売を準備しており、NVIDIAとの競争が予想されます。 最近、サウジアラビアの国営石油企業であるアラムコから200億ウォン(約22億円)規模の資金を調達し、中東市場進出を準備しています。
21世紀の石油、半導体戦争の結末はどうなるか
韓国では2016年のAlphaGo(アルファゴー)とイ・セドル棋士の対局は、人工知能(AI)の可能性を実際に体感させた出来事でした。当時は、AIは具体的な現実よりも先端技術の一つとしか考えられていませんでしたが、わずか10年も経たないうちに、AIはあらゆる産業に活用できる革新的な要素となりました。特に、AI技術を動かす核となる半導体は、今や世界が必要とする必需品となりました。
韓国はこれまでメモリとファウンドリー分野で頭角を現してきましたが、ファブレスやパッケージング(OSAT)分野では比較的成果が限定的でした。しかし、半導体設計ベースのファブレス分野は設備投資負担が少なく、技術力とアイデアだけで競争が可能なため、韓国のスタートアップはこの分野を積極的に攻略しています。DEEPX、FURIOSA AI、Rebellionsといった企業が現在のAI半導体時代をリードし、世界的な競争相手として浮上した理由もここにあります。
今、彼らはNVIDIA中心のニッチ市場を攻略することを越えて、独自の性能と効率性を武器に、グローバルAI半導体市場の「版」を変えようと努力しています。先端AI半導体技術を基盤に、自動運転、IoT(モノのインターネット)、スマートファクトリーなど、主要産業で韓国のスタートアップが生み出す変化に期待してみてはいかがでしょうか。