「流動性の危機」スタートアップはどう対処すべきか?
「流動性の危機」スタートアップはどう対処すべきか?
優れたスタートアップエコシステムが存在するところには、ビジネス成功の機会が多く生まれる。質の高い創業エコシステムが構成されるためには、3つの要素が必要だという。基本は人材だ。良い起業家はもちろん、その起業家と共に働くチームメンバーがいなければならない。2つ目は、それを支えることができる社会資本、つまり財源である。ビジネスにおいて金銭的な裏付けは必須である。スタートアップがポンプで水を汲み上げるとすると、上から注ぐ一杯の水は、恵みの雨と同じだ。3つ目は、エコシステムへの関心だ。創業エコシステムに対する大衆の理解が不足すれば、摩擦が生じることがある。この3つの要因がポジティブなシナジーを生み出し、グローバルスタートアップエコシステムは飛躍的に成長・発展してきた。
しかし、昨年から世界中のスタートアップエコシステムが調整期を迎えた。これまで未来価値に重点を置き、成長のために没頭していたスタートアップが、収益性を証明しなければならない時代になったのだ。特に、新型コロナウイルス終息前に引き起こされたロシアのウクライナ侵攻は、バタフライ効果となり、グローバル経済を寒冷期へと導いた。このような現象は、投資金を踏み台に成長していたスタートアップ業界にも、資金繰りに悪影響を及ぼした。投資段階が上がるほど、資金調達が難しくなり、不況を実感している。
このようなグローバルスタートアップエコシステムの核心的な問題を分析し、今後の発展方向を提示する場が設けられた。
全州ラハンホテルで8日に開幕した「スタートアップエコシステムカンファレンス2023」の講演者として、Envisioning Partners(インビジョニングパートナーズ)キム・ヨンヒョン代表、STARTUP ALLIANCE(スタートアップアライアンス)チェ・ハンジプセンター長、Tapasmedia(タパスメディア)キム・チャンウォン代表、Korelya Capital(コレリアキャピタル)KOREAピエール・ジュ代表、Platumチョ・サンレ代表が講演者とパネルとして参加し、米国、欧州、中国など、グローバルスタートアップエコシステムの現状を見通した。
スタートアップエコシステムカンファレンスで専門家らがグローバルスタートアップエコシステムについて議論している(左から)STARTUP ALLIANCEキム・ドヒョン理事長、Envisioning Partnersキム・ヨンヒョン代表、STARTUP ALLIANCEチェ・ハンジプセンター長、Tapasmediaキム・チャンウォン前代表、Korelya Capital KOREAピエール・ジュ代表、Platumチョ・サンレ代表 ⓒPlatum
インパクト投資専門ベンチャーキャピタルEnvisioning Partnersのキム・ヨンヒョン代表は、「先進国から新興市場まで続く景気低迷、国際情勢の緊張感、金融市場の変動性など、複合的な影響で、ニューノーマルの時期を迎えている。シリコンバレーバンクの廃業など、2023年の金融市場危機により、すべてが厳しい状況となった。弱い部分から連鎖的な打撃が進んでおり、まさに金融版パンデミック状態だ。流動性の問題、金融システムに対する信頼性の危機、実験資本の萎縮などが、ベンチャーエコシステム全体に悪影響を及ぼした」と述べた。
続けて彼は「ベンチャーキャピタルに資金がたくさん溜まっているが、昔ほど簡単に解けない。収益性が高く、キャッシュフローをよく生み出す会社には資金が集まるが、そうでない会社が資金を調達するのは非常に難しくなった。将来の成長可能性だけを信じて市場規模を拡大する戦略は、もはや有効ではない。今は未来を期待するのではなく、早く収益を上げることができる前提条件が重要になってきた。スタートアップもこれに適応しなければならない」と分析した。
Envisioning Partnersキム・ヨンヒョン代表 ⓒPlatum
キム・ヨンヒョン代表は、新しいグローバル化を準備しなければならないと強調した。「低成長構造を超える構造を作らなければならない。アメリカ、中国、ロシアなどの市場を具体的に選択する必要がある。悩みたくくなくても悩まなければならない時期になってきている。ローカライズされたグローバル化をすべきであり、事業初期から構造を考えて始める必要がある」米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)であるSequoia Capital(セコイアキャピタル)が最近、中国事業を分離し、独立した会社として運営することを決定したことを例に挙げた。米中対立の激化とニューノーマル時代による決定という分析だ。
キム代表は、このような危機的状況でも注目される分野は存在すると述べた。彼は「厳しい経済状況でも影響を受けにくい分野は、生成型AI、サイバーセキュリティ、気候テックと言える。気候テックは、一部の企業だけの問題ではなく、すべてのスタートアップが考えなければならない変化だ。適切に対応し、機会を作っていくべきかを考えなければならない」と強調した。
STARTUP ALLIANCEチェ・ハンジプセンター長ⓒPlatum
STARTUP ALLIANCEのチェ・ハンジプセンター長は、スタートアップエコシステムが「革新の変曲点」に来ているとし、「投資が減ったというより、2021年に過度に多かった」と分析した。彼は「現在、VC資金は十分に蓄えられており、いつ溶けるかがポイントだ。それがスタートアップにとっては希望になるが、投資家にとっては火薬庫になる可能性がある。今はベンチャー投資がハイリスク・ハイリターンではなく、リスクは上がるがリターンは減るという状況だ。投資余力のない投資会社も多くなった。投資会社も貧富の差がある」とし、「それでも投資財源とスタートアップの両方が増えている。体格が大きいスタートアップも登場したが、今は体力がどうなのかを見るべき時だ」と語った。
チェセンター長は、健全なエコシステムのためには、多様性が重要だと強調した。彼は「全企業の65%、ベンチャー投資企業の77%が首都圏にある。エコシステムがうまく構築されるためには、インバウンド、アウトバウンドの両方が必要だ。しかし、韓国はインバウンドが弱い。業種や性別も、製造業、男性中心に偏っている。多様性はイノベーションを超え、収益性につながるという研究結果が出ている。良質のエコシステムを創出するためには、意図的な多様性も必要だ」と述べた。
Korelya Capital KOREAピエール・ジュ代表 ⓒPlatum
Korelya Capital KOREAピエール・ジュ代表は、ヨーロッパの投資動向とトレンドを発表した。彼は「2021年のヨーロッパのスタートアップ投資は過去最高を記録した。累積投資だけで1,000億ユーロ(約15兆5000億円)規模だった。2022年は前年比で減少傾向だったが、2020年に比べて2倍程度多い数字だった」と分析した。
彼は「初期段階のヨーロッパのスタートアップは順調に推移しており、2022年にも成長を見せているところが多かった。ユニコーンの数は以前と比較して1/3レベルだが、2017~2019年と同等の水準だ。ただ韓国と同様、イグジットは多くなく、企業価値は以前より低く評価された。ヨーロッパのスタートアップも見守りながら、良くなる時期を待っている」と述べた。
ピエール・ジュ代表は、ヨーロッパが初期のインパクト投資をリードしていると述べた。彼は「ヨーロッパのVCとグロースファンドが保有するドライパウダーは840億ドル(約12兆円)規模であり、インパクト投資セクターが急浮上した。これに伴い、イギリスやスウェーデンなどでインパクトユニコーンも登場している」と述べた。
ピエール・ジュ代表は、韓国のスタートアップがヨーロッパ進出をあまり考慮しない理由について、「ヨーロッパという市場は大きいが、様々な言語や国別の規制などが複雑で難しい部分がある」と説明した。
Tapas mediaキム・チャンウォン元代表 ⓒPlatum
ウェブトゥーンプラットフォームであるTapas mediaを創業し、エンジェル投資家として活動していTapas mediaるキム・チャンウォン元代表は、米国のスタートアップエコシステムについて「全世界のスタートアップ投資の半分を占める米国でも、2022年のファンド規模は2021年比30~35%程度減少した。その背景にはファンドレイジングができないこともあるが、挑戦しないこともある」とし、「スタートアップエコシステムも2021年までは創業者中心だったが、今は投資家中心の市場だ。ユニコーンとイグジットの数も減少した。SPAC上場が話題となったが、今はほとんどない。それでも脚光を浴びる分野はある。代表的にSaaSへの投資は増加傾向にある」と述べた。
続けて彼は「初期段階の企業は、非常に大きな打撃を受けることはないだろう。初めて始める会社のうち、まともなところは、投資を難なく受けられると見る。後の段階でも魅力的な企業は、価値は下がるが投資につながる。ただ、シリーズA段階の企業は多くの困難を訴えている。過去と比較して投資家の目線が変わったからだ。以前はある程度の数字さえ合わせれば資金調達が可能だったが、今はそれをはるかに上回ることを求められている。市場が変わり、それまで学習した数字が意味を持たなくなったのだ。しかし、来年は徐々に回復すると予想している。現在、IPOを待っている企業が多い。まだ希望は持てる」と説明した。
キム前代表は、シリコンバレー以外にも、LA地域を韓国企業の進出に適した場所として挙げた。彼は「LAは韓国企業が進出するのに良い市場の一つである。特に、韓国人コミュニティなどのネットワークを持つことができるという強みがある。特に米国進出を考えているスタートアップなら、現地の韓国人ネットワークをうまく活用しなければならない」と強調した。
彼はグローバル進出を考えるなら、イスラエルの事例を参考にすべきだと述べた。彼は「サイドプロジェクトとして、イスラエルの同僚と小さなファンドを作ろうとしている。背景として、イスラエルのスタートアップエコシステムを見て学んだことが大きい。NASDAQ(ナスダック)にわれわれは1社のみ上場しているのに対し、イスラエルは83社も上場している。われわれがグローバルを考えるとき、アメリカと比較することは意味がない。イスラエルモデルを見る必要がある」と説明した。
Platumチョ・サンレ代表 ⓒPlatum
Platumのチョ・サンレ代表は、中国のスタートアップエコシステムを説明し、長期的なリスク管理が必要だと述べた。
彼は「2023年2月、中国政府が国家デジタル戦略マスタープランに相当する”デジタル中国建設規定”を公開した。デジタル時代の中国式近代化を主導する戦略であり、新たな競争優位性を獲得できる基盤であることを強調するが、データの流れまで政府が見るという意味で、企業の活動に制約が生じる可能性がある」と分析した。
チョ代表は「中国のスタートアップエコシステムは、様々な業種が分布しており、国がスタートアップ投資を主導しているため、その割合も増えている。特に最近、モビリティ関連の投資が多かった」とし、「最近、中米関係が悪化したため、中国の科創板や香港証券取引所に上場する傾向がある」と説明した。
チョ代表は「スタートアップが中国市場への進出を考えるなら、長期的な視点でリスク管理をしなければならない。グローバル企業は中国市場を別々に扱ってアプローチすることが多い」と述べた。
スタートアップエコシステムカンファレンス2023ⓒPlatum
一方、STARTUP ALLIANCE主催で開かれるスタートアップエコシステムコンファレンスは今年で8回目を迎えた。2023年のイベントにも、国内外のベンチャー投資家(VC)やアクセラレータ(AC)、大企業のCVCなど主要投資家だけでなく、全羅北道(チョルラブクド)などの公共機関、大学関係者も参加し、韓国スタートアップの主要イベントとして定着した姿を見せた。
トップ画像:韓国全州(チョンジュ)で8-9日両日開催されたスタートアップエコシステムカンファレンス2023の現場 ⓒPlatum
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