産業の現場における「実感できるAI化」を実現する |株式会社MakinaRocks -日本事業開発担当 永井宏志郎
株式会社MakinaRocks -日本事業開発担当 永井宏志郎
東京大学公共政策大学院とソウル国立大学国際大学院を修了。戦略コンサルティングファームのピー・アンド・イー・ディレクションズにて、中期経営戦略の策定・実行支援などに従事。 2019年に韓国に渡り、映画関連会社であるCJ4DPLEXに転職。その後、オンラインクラスプラットフォームのCLASS101に参画し日本事業を立ち上げ、事業開発として事業を拡大。 韓国の化粧品会社を経て、MakinaRocksにジョイン。日本事業開発を担当。
-MakinaRocksはどのような会社ですか?
MakinaRocksは2017年に創業した「産業を変革することのできる知能化ソリューションをつくる」をミッションに掲げたスタートアップです。機械学習技術とMLOpsプラットフォームを組み合わせて産業現場に特化した統合型AIソリューションを提供しています。MakinaRocksは、製造業向けAI企業の先駆けとして、アプライド・マテリアルズ、サムスン、現代、SK、LGなどグローバル製造企業とともに数多くの事例を作ってきました。昨年には、ChatGPTで有名なOpenAIなど世界のAIトップ企業とともに、CB Insightsの「世界で最も有望なAIスタートアップ100社(CB Insights AI 100)」に製造業分野のAI企業として世界で唯一選ばれるなど、ありがたいことに世界から注目されています。
社内イメージ/MakinaRocks提供
₋提供するサービスの強みや差別化されている部分について教えてください。
MakinaRocksは主に3つのサービスを提供しています。まず1つ目がAIプロジェクトと呼ばれる、お客様のニーズに合わせたテーラーメイドのAIサービスです。そして2つ目が、このプロジェクトで得た知見をよりパッケージ化したAIソリューションです。AIソリューションには、モーター・レーザードリルなどの異常探知ソリューションであるMRX Motorと、ロボットアームをAIで分析し異常検知するだけでなく動作設計も最適化するMRX Roboticsがあります。3つ目がエンタープライズMLOpsプラットフォームであるRunwayです。MLOpsとは機械学習(Machine Learning)と、運用(Operations)を組み合わせた言葉で機械学習モデルをビジネスに活かすために必要なライフサイクルを構築するツールです。
GoogleやOpenAIなどビッグテックを中心にAI技術は急速に進化しています。ただ、BCGの調査によれば、製造業でAIと関連した目標を達成した企業は6社中1社、16%に過ぎません。こういった中で、MakinaRocksがグローバル製造企業と行ってきたAIプロジェクトは約70%の成功率を誇ります。
私たちMakinaRocksが製造現場の変革を実現できるのには3つのポイントがあると考えています。1つ目はAIの専門家であるということです。MakinaRocksは産業AIの専門家4名が設立したスタートアップです。マサチューセッツ工科大学で博士号を取得したユン・ソンホ代表(CEO)はSKテレコムで世界最大の半導体製造装置メーカーとAIプロジェクトを成功させたことからMakinaRocksの創業を決意しました。
2つ目のポイントは製造業の専門家集団であるということです。CB Insightsの「世界で最も有望なAIスタートアップ100社(CB Insights AI 100)」に製造業分野のAI企業として世界で唯一選ばれており、製造業を中心にグローバル大企業からの投資を受けながらプロジェクト実績を積み上げてきました。日本の製造業においてAI普及のボトルネックになっているのが、AIの会社に製造業のドメイン知識が不足していることだと考えています。弊社はこれをクリアできる数少ない会社だと考えています。
そして3つ目が、一気通貫の支援を提供しているという点です。せっかく立派なAIモデルを作ったところで、それが継続的に管理・アップデートされることなしには、意義あるビジネスインパクトを創出することはできません。MakinaRocksはお客様の悩みに合わせたAIプロジェクト・ソリューションの提供からMLOpsプラットフォームであるRunwayまで自社提供することで、AI活用に伴走するだけでなく、ユーザーの自走までを支援しています。
MRX-Motor ダッシュボードイメージ/MakinaRocks提供
₋具体的な活用事例を教えてください。
弊社の代表的なAIソリューションであるMRX MotorとMRX Roboticsについてご紹介させていただきます。
MRX MotorはAIにより産業用モーターの故障を事前予測し寿命を計算することで工場の非稼働時間を短縮し生産ラインと作業の効率向上を実現するソリューションです。モーターは多くの生産ラインで使用される重要な設備であり、これらの予期せぬ故障は生産ラインの停止につながり、生産性を大きく左右します。MRX Motorは複雑な工事なしにモーターのデータを安定して収集できる無線振動センサー設置からデータ前処理およびデータパイプライン構築、AIでリアルタイムなインサイトを視覚化するダッシュボードまでを提供する産業用モーターのためのAIソリューションです。MakinaRocksが採用した半教師あり学習ベースのディープラーニングモデル(Semi-supervised Novelty Detection)は、モーターの劣化を最も早く確認できる先行指標である振動データを学習し、異常パターン発生時に現場エンジニアにアラートを送ります。これにより、工場の非稼働時間を最小限に抑え、生産効率を高めるだけでなく、モーター設備寿命を予測することによるメンテナンスコスト削減、追加生産のリードタイム短縮も可能です。このソリューションはグローバルなバッテリーメーカーの極板を生産する工場などで実際に使用されています。
またMRX Roboticsは最先端のAI技術とロボティクス技術を融合し、ロボットの動作品質を分析・異常予測をするだけでなく、オフラインプログラミングまで自動化することで産業用ロボットの価値を最大化しています。例えば、自動化された自動車の製造環境では、多数の産業用ロボットが生産ラインの各段階で組立、塗装、溶接などの重要な工程を担います。MakinaRocksは、独自開発した教師なし学習ベースの異常探知アルゴリズムを活用し、産業用ロボットの異常探知モデルを安川電機、現代ロボティクスなど異なるブランドの400台ものロボットに適用し、5日前には設備異常を探知できる体制を実現しました。こういった異常検知に加えて、溶接ロボットのプログラム作成までも行いました。例えば、1台の自動車が出荷されるまでに2,000回の溶接作業が必要となります。これまで手動で作成すると4~6週間かかっていたものを3日以内に自動的に行えるようにしました。これにより、製品生産を素早く開始し、全体的な生産サイクルを短縮することに寄与しました。
- 日本市場をどのように見ており、進出を計画する理由を教えてください。
日本は言わずと知れたものづくり大国であり、GDPにおける製造業の占める割合も依然として20%前後を保っています。これまでの日本ではDX(Digital Transformation)とAI化であるAIX(AI Transformation)は別物でした。しかし、Chat GPTをはじめとした生成AIの普及などもあり、DXとAIXの2つが一気に進む土壌が整ってきているとも言えます。ただ、日本の本丸である製造業の「現場」ではまだまだAI化は進みきっていません。我々MakinaRocksは産業の現場における「実感できるAI化」を実現することで、日本の製造業復活に貢献したいと考えています。
₋日本と韓国のDX化・AI化に違いはありますか?
DX化・AI化におけるステージは、日本と韓国で異なると考えています。私は展示会などを通じて日韓両方を観察してきましたが、韓国ではデジタリゼーションのフェーズ、つまり紙ベースの情報をデジタル化する作業はほぼ完了しており、現在は既存のデータを活用する段階にあると思います。そのため、韓国の企業では、「これらのデータがあるが、どのように活用すべきか」といった課題に直面するケースが多いです。
一方、日本でも多くの企業がデータ蓄積のフェーズを終えており、デジタル化されたデータを活用する取り組みが進んでいます。しかし、韓国と比較すると、まだ紙(アナログ)をデジタル化する段階にいる企業や、それらの企業向けにOCRなどのデジタル化ソリューションを提供する企業が多いと感じています。
なので、一概に日本がAI化に遅れているとは言えないのですが、大きく見てフェーズの違いを感じているところです。
また、日本では、現場で働く方々が培ってきた経験や感覚が豊富に蓄積されています。たとえば、当社が提供している産業用ロボットの異常検知ソリューションでは、実際にアラートが発生した場合には現場のエンジニアが目視で確認することになります。その結果、アラートの正確性がどうだったのか、現場の感覚と照らし合わせて、それをフィードバックとして取り入れることでより正確なAIモデルに向けて学習させることが可能です。
日本においては、現場エンジニアの経験に根ざした無形の知識をAIに組み込んでいくことが、韓国以上に重要になっていくと考えています。
₋今後日本以外の海外に進出する予定は?
弊社は韓国企業ですが、2017年に韓国で創業し、翌年の2018年にはシリコンバレーにオフィスを設立し、アメリカと韓国の2拠点で事業展開してきました。このため、ボーングローバルな企業であると言えます。今後は韓国、アメリカ、そして日本やヨーロッパを視野に入れた展開を進めていく予定です。
₋今後の計画を教えてください。
日本における事例がまだまだ少ない状況ですので、1つ1つ意味ある事例を積み上げることで日本においても信頼獲得ができればと考えております。また、エンドユーザーとの事例創出に加えて、弊社のソリューションを一緒に広げてくださるパートナー企業も積極的に募集しています。このエンドユーザーとの事例創出とパートナー企業との市場開拓を車の両輪にして、日本におけるより強固な体制構築を進めていく予定です。製造業の現場においてどういったことができるのか、より詳細な事例を聞きたい方がいらっしゃいましたらお気軽にお問合せいただけると幸いです。
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