孫泰蔵氏が考える「スタートアップ」(2/5):スタートアップにマネタイズを急がせてはいけない
第二回:スタートアップにマネタイズを急がせてはいけない
―孫さんはインタビュー記事などで、「起業家に『それって儲かるの』と聞く人は相手にしないようにしている」といったことをお話しになっていますね。
孫さん 「それって儲かるんですか」とか「そのビジネスモデルは成り立つんですか」とか「事業計画をみせてほしい」といった質問は、起業家にとっては耳にタコができるくらい受けている質問だと思います。まずもってスタートアップが志すのは世の中にないビジネスであり、それが事業計画通りに進んだり、はやい段階からマネタイズするとは到底考えられないのに、なぜそれを必死に求めるのか、といったことがあります。私はこうした質問をする投資家にはビジネスセンスがないと思っていますし、起業家の皆さんはそういう発言をする人たちの話に耳を貸す必要はないと考えています。投資の責任をスタートアップに押し付けているようにしか思えないのです。
それに、こうした発言はスタートアップの可能性を潰してしまう恐れすらあります。本来であれば無限の可能性を秘めていたはずのビジネスが、マネタイズを急いだり、事業計画通りに事を進めようとしたりすることで、萎縮してしまうことがあるのです。スタートアップにおいてはセレンディピティを重視すべきなのに、それを無視するなんてまったく意味のない話です。
―たしかに、セレンディピティへの対応はスタートアップにとって欠かせない要素だと思います。
孫さん 私は計画が面白さを潰すと思っています。旅行するときのことを思い浮かべてください。ガイドブックなどで事前に計画を立てるかもしれませんが、実際に出かけてみると行きたい施設が臨時休館だったり、大雨が降ったりと何かしら予期しないことが発生します。逆に何気なく入った横丁におもしろそうな店を見つけることもあります。こうした想定外の出来事や出会いに柔軟に対応していくことで旅の面白さが生まれます。スタートアップにおけるビジネスも一緒です。何のために起業するのか。誰のためにビジネスをするのか。そこを忘れ計画に縛られていては新しいビジネスは育ちません。だから私はスタートアップ支援において「それって儲かるの」といった発言をする人の言葉を信じないことにしているのです。
―ですが、ほとんどのVC(ベンチャーキャピタル)は依然としてマネタイズをつねに気にかけているように思います。
孫さん ファンドのように第三者の資金を預かって運用するスタイルだとリスクをとりづらくなりますので、その傾向は否定しません。それを避けるため私の投資スタイルは、自分の思いや意向を反映できるようすべて自己資金で行っているということがあります。この方針は今後も貫きつづけるつもりです。また多くのベンチャーキャピタリストは自分で起業した経験がありません。これは実に不思議なことです。プロスポーツの世界では監督やコーチを務めるのはその競技の経験者であることが一般的なのに、スタートアップの世界では起業を経験したことがない人たちがアドバイザリー業務や投資判断を行うことがまかり通っているのです。
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第四回:〝新しい文明〟をつくるほどの社会的インパクトを創出したい
第五回:国ごとの〝違い〟を反映したビジネスモデルに価値がある
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