【そのとき投資】 60Hz、発電所のない発電所に投資した理由
【そのとき投資】 60Hz(シックスティヘルツ)、発電所のない発電所に投資した理由
sopoong ventures(ソプンベンチャーズ)ハン・サンヨプ 代表
@そのとき投資(私はその時、投資することを決めました)では、現役の投資家がなぜこのスタートアップに投資したのかを共有します。
「済州島では太陽光や風力発電で作られた新再生エネルギーがしばしば捨てられていることをご存知ですか?1年に何度も発電所を止めています。電気が多く生産されすぎているのです」
60Hz(シックスティヘルツ)のキム・ジョンギュ代表との非常に興味深い対話の始まりだった。最初の話一つとっても半信半疑だった。
そんなことが?2050年までにNetZero(ネットゼロ)を達成するため、国別に温室効果ガス削減目標が設定され、世界的に新再生可能エネルギー発電量を増やすための総力戦が繰り広げられているに現状で、電気が捨てられているだって? 実のところ、60Hzに出会うまで新再生エネルギーに対する理解度が深くなかった私には、60Hzのビジネスモデルはやはり馴染みのないものだった。
発電所といえば発電所であり、発電所のない発電所モデル、 つまり仮想発電所(Virtual Power Plant、VPP)と呼ばれるソフトウェア事業をするというのが、直感的に理解できなかったのだ。
しかし、深く掘り下げれば掘り下げるほど、仮想発電所は未来に不可欠な技術だった。仮想発電所とは、太陽光、 風力などの小規模再生可能エネルギーの分散電源をクラウドベースの人工知能(AI)ソフトウェアを通じて一つの発電所のように統合・管理する仮想システムのことをいう。
太陽光、風力のように気象などの条件によって間欠性が生じざるを得ない新再生エネルギーの発電量などを正確に予測して供給することで、火力発電所などに代わる存在となり、炭素発生量を減らす、環境にやさしい発電所でありソフトウェアだ。物理的には存在しないが、物理的な発電所が電気を供給するのと同じ効果をもたらすため、仮想発電所と呼ぶ。
小規模な分散電源が増えるにつれて、仮想発電所はますます重要になってきている。済州島では今年だけで太陽光発電所は計12回、 風力発電所は昨年だけで計64回の出力制限があった。簡単に言えば発電所を止めたということだ。電力系統が耐えられる量より多くの電気が生産されたためである。光量や風量が豊富な陸地、一部地域でも出力制限が発生しており、むやみに新再生エネルギーを多く生産することだけが正しい方法ではないのだ。
60Hzはこのような問題意識から始まった会社である。キム・ジョンギュ代表が初めて連絡をくれた時、彼のことはH社のCTOとして在職中の人物として把握していた。60Hz創業時、キム・ジョンギュ代表はすでに新再生可能エネルギー分野では名高い技術者だった。
新再生可能エネルギー分野の先進国といえるドイツで勉強し、見て学んだ知識と経験をもとに、韓国内でも有数の電力事業者として成長した会社を共同創業したCTOだったからだ。電力事業者で働く中でキム・ジョンギュ代表の問題意識は、環境にやさしい電気を生産することを越えて電気網全体へと移っていき、 結局創業まで決心したのだった。
投資を通して縁を繋ぐようになったきっかけも、ドラマチックというよりは、簡潔な一通のメールが発端だった。キム・ジョンギュ代表が送ってきたメールには、簡単な紹介と60Hzが新たにリリースした「대한민국 햇빛바람지도(大韓民国日光/風地図」のリンクが添付されていた。
先に述べた通り、当時、再生可能エネルギーに関心はもってたものの、電力系統に対する知識や発電事業に対する理解度は低かったため、当該サービスをきちんと理解することはできなかった。むしろ業界では高名な彼が新たに創業をしたという事実の方が不思議で連絡を返した。そして、ほとんどコールドコールと変わらない方法で繋がった初めてのミーティングで、キム・ジョンギュ代表の話と60Hzがやろうとしていることに、のめりこんでしまった。
最初のミーティング以降、投資に関する議論は一気に進められた。そうせざるを得なかったのは、新再生エネルギー分野の韓国内トップの専門家であり、事業化を成功させた技術者というキム・ジョンギュ代表のバックグラウンド、 日々増える新再生エネルギー発電所と出力制限問題、 そして政府の予測精算金制度などが絡み合うことで、気候危機の解消はもちろん、ビジネスとしても成立すると確信したからだ。
政策の状況も見通しが明るかった。グリッド全体の系統維持のために、韓国電力では風力、 太陽光などの分散電源から、最低でも前日には発電量に関する予測情報を受信する。そして、予測誤差/精度に応じて予測精算金というインセンティブあるいはペナルティを付与している。正確な発電量予測が重要なのは、電力網においては、発電量が需要を大きく下回れば広域停電(ブラックアウト)が発生し、 逆に発電量が需要を大きく上回ってもブラックアウトが発生するためである。
60Hzという法人名も韓国の電気周波数から来ている。韓国は電気周波数を60Hzに設定して電気を供給しているのだ。ブラックアウトの発生を防ぐため、発電量が不足し電気周波数が60Hzより低くなると発電出力を増やし、 逆に発電量が多すぎて電気周波数が60Hzより高くなると発電出力を減らすように制御している。電気周波数を意味する60Hzの目標は、電力網を安定して維持し、最適効率を達成するようにすることだ。
このような可能性のため、60Hzはsopoongはもちろん、 HYUNDAI(現代自動車)グループのZER01NE(ゼロワン)ファンドなどから非常に迅速な資金調達を行った。もちろん、仮想発電所が正しく動作するためには、いくつかを同時に準備する必要がある。 「スマートグリッド(Smart Grid)」、「分散型エネルギー資源(Distributed Energy Resources)」、「エネルギー貯蔵システム(Energy Storage System)」 などが必要だからだ。
現在60Hzは、新再生可能エネルギー発電所の発電量予測と発電所を管理するソフトウェアを供給することに注力しているが、 いずれはESSなどの様々な分散電源までカバーしていくだろうと予想される。
キム・ジョンギュ代表と60Hzは、単なるエネルギー産業内での革新にとどまらない。すでにエネルギー産業で頭角を表し、大きな注目を受けてはいるものの、「60Hzはソーシャルインパクトを中心に運営しなければならない」と信じるキム・ジョンギュ代表は初期の資金調達から株主構成に非常に気を遣った。そうした悩みの結果、60Hzはsopoongのポートフォリオ企業の中でも珍しく、企業定款に社会的価値の測定及び報告を明示している。
60Hzの企業定款の中でソーシャルインパクト委員会の運営に関する条項は、次のように始まる。 「当社の社会的成果を実現するため、毎年社会的成果を測定して報告するソーシャルインパクト委員会(社会的成果測定委員会)を設置する」 。そして去る3月、 60Hzは定款の内容どおり株主総会シーズンに合わせてインパクトレポートを送ってきた。
財務的成果と社会的成果を同時に創出する、二重目標の実現を目的とする企業は多いが、このように積極的にコミュニケーションを行う初期企業は非常に珍しい。60Hシックスティヘルツ将来がさらに期待される理由である。
朝鮮日報のニュースレター、「ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)」です。
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