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【STAYFOLIO】アートとプラットフォームの間のどこか、創業家で建築家のイ・サンムクの悩み

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【STAYFOLIO】アートとプラットフォームの間のどこか、創業家で建築家のイ・サンムクの悩み

ちょい事情通の記者 2号 イム・ギョンオプ

「この空間を作ったのは誰だろう?どんな脳みそを持った人の作品だろう。よくできたサービスを見たとき、誰がこのサービスを計画しているのかと感心し、店に陳列されているさまざまな商品を見て、それがここに置かれるまでにどれほど多くのことがあったのだろうと気にしてしまう癖が発動する。

急いで検索し、Z Lab(Zラボ)という建築家集団とイ・サンムクというキーワードにたどり着いたが、イ・サンムクという名前には聞き覚えがあった。

『この仕事をした人の中に、サンムクさんという人という人がいるんですが、西海岸の海美(ヘミ)にあるご両親のレストランを改修して、ペンションを作ったんです。とても綺麗なんですよ』都市研究をしている知人から聞いた文章の中のスペースデザイナーの名前が浮かびました」

〈そのとき投資〉に送っていただいたイ・ラムTBT代表の文章の一部です。投資につながるほど好奇心を刺激したのはどのような空間だったのだろう。建築?アートの領域である建築は、冷静なビジネス領域であるスタートアップと調和できるのか?

好奇心に導かれ、この空間を設計したSTAYFOLIO(ステイフォリオ)の創業者、イ・サンムク代表に会いに行きました。STAYFOLIOのオフィスは西村(ソチョン)にあります。西村からは、景福宮(キョンボックン)周辺の静かで穏やかな景色を一目で見ることができます。


ihwaruae(イファルエ)の様子。/STAYFOLIO


 「かつてイ・スンマン大統領が住んでいた梨花荘(イファジャン)があった場所で、漢陽都城の近くです漢陽都城はユネスコの世界遺産への登録を推進しています。世界遺産に登録されれば、一帯は開発を行うことができなくなります。では、この空間をどのように活用できるだろうか。じっくりと見ると、ソウルのすべての歴史が積み重なっているのです。

日本統治時代には、日本人によって家屋が建てられ、その上に韓国の近代化、セメントが積み上げられ、米軍が捨てていった有刺鉄線が積まれ、現在はスラム化し一帯が貧民街となっています。その場所で、その歴史のすべてを公開しました。豪華な宿泊施設を建てるのではなく、そこに残されていた新聞や壁紙をあえて見せたのです。そのような空間を作り、1泊50万ウォン(約5万円)にしたところ、駐車場がないにも関わらず、人が訪れてきました。」

建築を専攻していたイ・サンムク代表が2015年に設立したSTAYFOLIOは、現在300の独創的な宿泊施設を仲介するプラットフォームです。

コロナに伴う国内旅行ブームにより、特別な空間への滞在を求める人が大幅に増え、特にMZ世代の来場者が増えていることから、週末にSTAYFOLIOで人気のある宿泊先に泊まるには、2~3か月前から予約しなくてはなりません。 空間を変える建築がプラットフォームになった理由と、さらなる拡張が可能なのかどうかを尋ねました。   



父の店の改修と、ブログレビューが始まり  

-最初から宿泊プラットフォームを考えていたのですか?

「最初は、忠清南道瑞山市海美面(チュンチョンナム道ソサン市ヘミョン)にある実家兼父のレストランを改装することから始めました。高校の頃から建築学科に行きたいと思っていました。子供の頃から父は自分の家を設計して建てていたんです。

当時から、青写真を見て、家を作り、建てていく過程を見て、興味を感じていました。建築学研究科を卒業後、土木・設計会社に勤め、会社を辞めて2011年に「ZEROPLACE(ゼロプレイス)」を作りました。私の故郷なので、すべての始まり、ゼロに戻るという意味です。

 父のレストランは25年ほど経過している古い建物だったのですが、友達たちと一緒に、自分たちが考えたとおりに空間をリスタイルしました。ZEROPLACEへの宿泊予約を、インターネットブログで受け、運営したのが事業のスタートとなりました。

法人の設立はしていませんでしたが、実質副業とフリーランスの間という感じでビジネスの準備を行いながら過ごしていました」


-ブログをしていた頃からSTAYFOLIOという名前だったのですか?

「平凡な空間、宿泊施設は除外し、特別だと感じる宿泊施設を約200か所回りました。それをブログにばーっと、一種のレビューのように紹介しました。

それで、stayとポートフォリオフォリオのfolioを組み合わせて名付けました。かなりの人がアクセスしてきました。他の宿泊施設を単に宣伝して評価するのではなく、建築専攻の観点から空間を分析することで違いを出しました」 


-iPhoneからアイディアを得たとお聞きしました。

「2011年11月、日付まで正確に覚えています。その時、初めてiPhoneを使ってみたんです。衝撃を受けて、全世界がスマートフォンを中心に回っていくような気がしました。苦労してブログで予約する必要があるだろうか?スマートフォンで予約する方法はないだろうか?

そこで、高校時代にコンピューター工学を専攻していた開発者の友人を訪ねました。その時から話していましたね。宿泊予約を受け付けられるアプリを作りたい。最初のWebページを作ったのは2012年だったので、かなりの時間がかかりました」


-Netflixオリジナルのように、オリジナルの宿泊施設があるとお聞きしました。

「2016年には、リアルタイムの宿泊予約システムと自社設計の12箇所の宿泊施設を打ち出しました。Netflixオリジナルのような宿泊施設といいましょうか。STAYFOLIOは、自分たちが建てたものではない宿泊施設を仲介することもありますが、自社で設計・製作した物件もあります。Netflixの戦略に似ています。

現在、STAYFOLIOで予約できる宿泊施設は全部で300箇所あります。このうち、直接デザイン・制作した空間は約50か所です。残りの250カ所は他の建築家や事業家によって作られたものですが、その中でも、60%はSTAYFOLIOでしか予約できない独占施設です」


イ・サンムクSTAYFOLIO代表/STAYFOLIO  


アイデンティティや思いのない場所には拡大しないという原則  

 

済州島の「blindwhale」。済州島の特徴や歴史を反映していると言う。/STAYFOLIO  


-なぜ250カ所の外部施設とそのオーナーはSTAYFOLIOからだけ、予約を受け付けているのでしょうか?

「STAYFOLIO自体が『そこに入れれば特別な場所』というブランドになったためです。私たちは普通の宿泊施設を作ったり、プラットフォームで受け付けたりしません。現在も、建物や土地を使って宿泊施設を建ててほしい、リモデリングしてほしいという要望が多く寄せられています。リクエストが10件届いた場合、9件は断っています」


-断る基準は何ですか?

「空間には、そこに生きていた人々のアイデンティティと切実な思いがこもっています。アイデンティティや思いのない場所や空間は、特別な場所にすることができません。

例えば、私が初めて作ったZEROPLACEは、うなぎ焼き屋をやりながら田舎で幸せに暮らしたいという父の思いが反映された空間だということを理解していたため、作ることができました。

 済州島(チェジュ島)の「blindwhale(イ・ヒョリ、イ・サンスン夫婦が有名にした宿泊施設)」は、済州島という場所と済州の人々の物語があったため、そのアイデンティティを反映して設計しました。例えば、台風がよく来るため、低くした格子状の屋根、風を通せるように作られた石垣、低い梁や垂木はすべてそのままにしました。

屋根をそのままにすると、何倍も費用がかかりましたが、そうした意味を残しておいたのです。 風を避けようと、海に向かって90度に作られた家、黒い屋根の姿が海岸にぶつかる盲目の鯨のように見えて、blindwhaleと名付けました。」


-特別な宿泊先があるから、とSTAYFOLIOに来る?UI/UXに関する悩みはあるでしょうか?

「STAYFOLIOが仲介している独占物件にはすべて独自のウェブページを作成しています。その空間がSTAYFOLIOの加盟店のように消費されるのではなく、独立したアイデンティティを持つ空間として捉えられるようにするためです。

代わりに、予約と支払いのシステムは、当社のシステムへと繋がっています。お互いにウィンウィンなのです。そのため、素晴らしい建築家達が設計した宿泊施設が、STAYFOLIOに入ってくるということが増えています」


-STAYFOLIOの主な事業は空間設計でしょうか、それとも多数の宿泊施設や集客をプラットフォームに誘致することでしょうか?

「それで、私たちは会社を2つに分けました。私が主に建築家達と一緒に設計・リモデリングを行う会社は「Z Lab」、プラットフォームを運営している会社は「STAYFOLIO」として。オリジナル宿泊施設はZ Labの作品となるわけです。私はSTAYFOLIOに移り、プラットフォームの運営と拡張に専念しました」     


大量生産の問題とマクドナルドのレイ・クロック


-資金調達はあまり活発ではありませんでした。

「口コミで広まったため、マーケティング費用もかからず、大きな赤字もありませんでした。シード投資をかなり遅く受けているのは、海外進出の準備をしていたためです。日本とベトナムに向けて準備しており、新型コロナウイルスの影響で一度ダメになってしまいましたが、再び準備を進めています」


-アイデンティティが曖昧ですよね。Airbnbを目指しているのでしょうか、それともユニークで建築的に意味のある滞在先を売ること?

「投資家達がビジネスをよく理解していない場合の最も簡単な説明は、「プレミアムAirbnb」です。しかし、Airbnb、他のホテルや典型的な高級宿泊施設とは差別化を図りたいと思っています。高価で良いもので埋められているけども、みんな同じような部屋、ベッド、椅子。退屈ではありませんか?私たちは、このような統一された空間と体験に、芸術的な視点と独創性をもたらしたいのです」


-プラットフォームになるためには、大量生産と拡大も重要な課題です。5年間で、50のオリジナル宿泊施設を創り出しました。

「投資家の中には、年間300の宿泊施設を建てることはできないかと尋ねる方もいらっしゃいます。『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』という映画があります。マクドナルドの創業期についての映画です。レシピとマクドナルドの製造システムを作ったのはマクドナルド兄弟です。

しかし、これをグローバルビジネスにして株式を買収したのはレイ・クロックという人物です。

 マクドナルド兄弟が30代前半でハンバーガーを作っている様子を見た、ミルクシェイクマシンのセールスマンであるレイ・クロックがパートナーとなり、店舗拡大を行いました。品質にこだわるマクドナルド兄弟とは違い、レイ・クロックや不動産購入など、さまざまなビジネス手段を駆使して、マクドナルドを全国チェーンへと変えました。

 結局、マクドナルドの兄弟とレイ・クロックは分裂し、兄弟はレイ・クロックに尋ねます。『レシピを全部知っているのに、どうして辞めて別で商売をしなかったんだ』と。レイ・クロックは答えました。『マクドナルドというブランドはこれほど力を持っているのに、なんでわざわざ他の事業をやる?』最終的に、ブランドを買収するのです。

 拡張の問題を解決できる時がくるとすれば、私がレイ・クロックになるか、STAYFOLIOにとってのレイ・クロックが現れた時のみだと思います。しかし、都度機械で作っていたマクドナルドのミルクシェイクを、粉末を溶いて作るように提案したのもまた、レイ・クロックでした」  



5分で2億ウォンを集めたクラウドファンディング  

-芸術的な感性を持つブランドには、独自の経済性と影響力があるのでしょうか?  

「最も類似した分野で、尊敬しイスピレーションをくれる起業家の1人が、Kakao(カカオ)の前代表です。チョ・スヨン代表のデザインのビジネスへの変え方は、彼の主張でありメッセージでした。実際のところ、建築家のポートフォリオは、自身が作成したものとは言いますが、結局は依頼した人たちによって左右されます。

 しかしチョ・スヨン代表はこれに反していました。『僕らはこういう仕事をする人間で、このデザインのメッセージはこうあるべきです。だからこそ私はこのようなデザインをしなくてはなりません』とクライアント、市場、そして人々を納得させました。

このデザインを見たら、こういう記事が出て、それを見たブロガーがこんな風にレビューを残すだろう、すべてを予測しているように。空間をどのようにリスタイルするのか、自ら説得できるようなコンテンツとロジックがあってこそ、市場を変えることができるでしょう。経済性は、その次に形作られていくものです」


-宿泊施設を建てるためにクラウドファンディングで5分で2億ウォン(約2,000万円)を集めたと聞きました。

「昨年、私たちは済州・朝天邑(ジョチョンウプ)に「batdamhouse」という名の空間を作るために、建設費を1億ウォン(約1,000万円)を集めるクラウドファンディングプロジェクトを行いました。目標金額よりも9,000万ウォン(約900万円)多く集まりました。

5分で、200人がお金を出し、締め切ったのです。投資者には宿泊券と年率2%の金利が提供されます。しかし、考えてみてください。誰が2万ウォン(約2,000円)を受け取るために100万ウォン(約10万円)を1年間預けるのでしょうか。ピークシーズン中は予約も熾烈です。STAYFOLIOの本当のファンだけが参加しました。映画で言えば、次作が気になりすぎて、どうにか試写会のチケットを手にいれるファンでしょう。

 クラウドファンディングはこれまで2か所しか行っていません。空間や物語を愛し、個性を追求する人々をつなぐ、強くて緩やかなコミュニティがあるのだと思います。このコミュニティは、ヒルトンやマリオットなどのホテル協会よりも強力かもしれません」


AROUNDFOLLIE(アラウンドフォリー)済州島の小火山をモチーフにしたキャンプスタイルの空間。/STAYFOLIO  


-済州島に空間をたくさん作り、ソウルにもたくさん作られました。次の目標はどこでしょうか?

「地方の廃校をリスタイルできるなら、それをやりたいですね。STAYFOLIOに春川(チュンチョン)の『owolschool』という空間があります。閉校となった小さな学校は、子供と親が遊んだりリラックスしたりできる場所に改装されました。

この先地方の人口は減少し続けるでしょうが、そのような地域に特別な空間ができたら、その場所はどう変わるのかが、気になっています。

長新洞(チャンシンドン)の貧民街に『changshin creativehouse』というところがあります。初めその場所を見たとき、映画「マトリックス」に出てくる人間の繁殖地が思い浮かびました。マトリックスでは、主人公は真実に気づくと、小さなポケットの中に人間を飼育し、機械でエネルギーを集めます。

2〜3平方メートルの小さな貧民街に寝にだけ入ってくる人たちは、まさにそのような感じでした。そんな空間に小さな変化を起こしたかったのです。それで私は特別な宿泊施設を作ったのですが、訪ねてくる人が増えるにつれて空間全体が変化しました」 


-今後、旅行のトレンドが変わったり、海外旅行が再び活発になったりする可能性があります。

「テスラの車に乗って、iPhone以来の衝撃を受けました。これは車じゃない。違うレベルの革命になると思いました。通信で車をコントロールでき、乗っていないときは他の人に貸すこともできる。自動運転で車をどこかに送れる未来が来るかもしれません。

ですから、将来、旅行の概念は大きく変わり、空間の創造や消費の仕方も大きく変わるでしょう。旅行のトレンド。それ以上の大きな変化があると思います。 海外展開は近いうちに具体的な成果を示すことができるでしょう」 

 

STAYFOLIOのowolschoolの景色とインテリア。右の内装写真は、子どもたちが親と一緒に木工などいろいろなことをできるよう提供しているいろいろなグッズ/STAYFOLIO  


/media/ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)
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朝鮮日報のニュースレター、「ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)」です。

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