「味の選択権を消費者に」10転び11起き創業者の新しい挑戦はデータベースの「味肉店」|Startup's Story #458
【Startup's Story #458】「味の選択権を消費者に」10転び11起き創業者の新しい挑戦はデータベースの「味肉店」
事業は数字と言うが、それだけでは成功という目的地に到達できない。事業で成果を作るのは数字ではなく、目標と信念と哲学だ。これまで出会った何百人ものスタートアップの創業者たちは、それぞれの理由とミッションを語った。
1人として同じ理由を語ったことはないが、彼らから共通して見えるものがある。一言では定義しにくい「本能」のようなものだ。キム・チョルボムDeeplant(ディープラント)代表もそんな本能をもつ人だ。
キム・チョルボム代表に初めて会ったのは2013年。当時、彼は電子書籍業界のトップスタートアップのCEOだった。彼が以前の事業を後にし、2019年、熟成肉の事業をしていると話してきた時、意外に思った。
彼の事業履歴と接点がないように見えたためだ。2年の準備期間を経て今年事業を開始をしたキム・チョルボム代表に、高陽(コヤン)市Deeplant本社で会った。
久しぶり。2013年に会った時は電子書籍スタートアップ代表だった。事業も良い評価を受けていたことを覚えている。
LTE環境に移りながら消費者パターンが大きく揺れ動く状況で、モバイルに適応できなかった。独自のコンテンツを作って突破口を設けるなど努力したが、結局失敗した。
1999年に初創業をしたベンチャー第1世代だ。電子書籍事業が9つ目の創業だった。
22年前、インターネットウェブページを作るアイテムが初の創業だった。以後、大企業の系列会社に防水ケース、政府機関に特殊装備を納品した。製造事業に対する素養が生まれ、2003年に野心的にペットドライヤーを販売した。今やっていれば上手くいくだろうとかなり言われる。(笑)
ただ、2003~2004年は景気が悪かった時だ。ペット犬が捨てられるというトラブルが多かった時代に、10万ウォン台(約1万円~)の製品は競争力がなかった。
その後、アメリカに行き、フランチャイズ支店を1つ買収して2年間運営した。その次にしたのが電子書籍事業だ。電子書籍事業を畳んだ後、ネットワークベースの教育事業をした。今の創業は2019年に50歳で始めた11回目の挑戦だ。
2013年ニューヨークで開かれたDigital Book World(デジタルブックワールド)でのキム・チョルボム代表
中年で創業をしている。20~40歳の時とは感覚が違うと思う。
青年に合わせた枠に中年が入ると効果が低くなる。中年創業者の共通の悩みは、最初のボタンをどのように掛けるべきか分からないということだ。中年創業者たちをメンタリングすることがあったのだが、一般的な方法でアプローチしていてはいけないと感じた。
いわゆるLean(リーン)な方法を認識できないことが多い。支援者の多くが事業ではなく商売の概念でアプローチしており、アイデア自体が最近のトレンドとかけ離れている場合も多い。事業計画書を出す際にブローカーを通じて行うケースもかなりある。
自分が上手くやれる領域ではなく、政府の支援が出るように書類を作成してくるケースもある。そのような支援事業は持続性がないため、資金回収をしなければならない要件だけ終えて廃業する。中年支援事業は青年とは全く異なっていなければならない。特に事前教育が必要だ。そうした人々を対象に行うと、円滑に進むだろう。
中年が持つ経験を活用し、後世にパスする方法を考えるというやり方であってほしいと思う。
今回の創業に先立ち、投資家に会ったりもしたのだろうか。業界で誠実な創業失敗は勲章と考えられる。投資家が、失敗した創業者の再創業にあたり、執拗に尋ねることが「失敗から学んだ点」である。
結論から言うと、3億ウォン(約3,000万円)規模のエンジェル投資を受けた。プレゼントとして私たちの熟成肉を食べた人が、訪れてきてもう1度試食するとすぐに決めてくれた。2週間で入金され、バリューもよく受けた。
しかしVC(ベンチャーキャピタル)側の反応はまだない。事業準備をしながら韓国内のほとんどのVCに事業計画書を作って送ったが、すべて拒絶された。ダメだという返信がほとんどで、答えがないところも多かった。
色々な理由があるだろうが、私の年齢も一因だっただろう。(笑) だからといってVC投資をあきらめたわけではない。オフライン店舗でより詳細な仮説証明がなされれば、次の投資の根拠になるだろうと思う。
今回の創業でのチームビルディングはどのように行った?
メンバーは近くから探したが、能力者である。一例としてソ・ジョングン理事は教会で1年間ボランティアを共に行った仲だ。その過程で息が合い、熱心に提案して迎え入れた。
ソ理事は映画方面で自身の事業を大きくしていた人だ。会社外では以前の創業で縁を結んだ人々が投資と技術の部分で大きな助けになってくれている。すべてがありがたい。
2021年5月5日にオープンしたDeeplantの最初のオフライン店舗「Delish Meat(デリッシュミート)」の外観。
店舗はulalaLAB Smart Factory(ウラララボ スマートファクトリー)と連動し、熟成庫の温度と湿度をリアルタイムで確認することができる。Deeplantは配達車両用温度、湿度センサーも開発中だ。
段階的に熟成された製品が店頭で販売されている。
以前の創業はほとんど製造とICT分野であった。熟成肉を創業アイテムに決めた背景は何か。準備期間も2年もかかっている。
精肉と畜産領域は流通が変わっただけで本質には大きな変化がなかった。データ活用方式もない。特に消費者が肉を選べないという問題があった。市場での肉の味の基準は産業とレストランが定める。従来の味噌や醤油のように作る人の好みに合うものを消費者に提供する方式だ。
消費者がおいしいと感じた肉をいつでも選べるべきだと感じた。それが当社の方向性であり目標である。それを熟成技術に分類できると考えて研究を行い、味が克明に分かれるのを三つのグレードで構成した。そんなデータを次々と積み重ねて2年間事業性を育ててきた。場合の数を多く蓄積したが、まだ不足しているものが多い。
価格ではなく味でグレードを区分して売っている。
国家が行う等級制ではなく、消費者が選択する等級制を作ろうとしている。それが良い肉であるという信念がある。
それで少し前にオープンしたオフライン店舗の名前が「Delish Meat」なのか。
Delish Meatは店舗名であり、当社のブランド名だ。研究結果とデータを基に美味しい肉を売る「味肉店」を目指す。本社加工工場ですべての肉類をデータに基づいて熟成し、裁断作業をして個別のスキン包装した後、新鮮肉、加工肉、味付け肉、簡便式などとして販売する。
店舗コンセプトは、消費者が見て選び、すぐに買って行くことができるdark store(ダークストア)の概念である。本社と店舗がある地域で配達とピックアップも可能にした。
新型コロナウイルスのパンデミック以後、精肉店がたくさんできた。
ハードルが低いためだ。通常3~4人で創業するが、1人当たり月に3~400(約30~40万円)ずつ稼げる。売上で見ると魅力的な産業だが、発展は微々たるものだ。既存の精肉店はグレード制で売ることもままならない。牛肉は脂肪さえ多ければ等級が上がる。
ある瞬間から、サシが多い肉が良い肉だという認識がされてしまうようになった。考えなしに選び、食用家畜を残酷に飼育する現象が生じた。サシの有無で出荷価格差が出るため、数ヶ月間集中的に輸入トウモロコシ飼料を与えるのだ。トウモロコシは糖の塊だ。
消費者がサシの多い肉を求めるため、農家もしょうがなくやっている。肉類の等級は国ごとに基準が異なる。アメリカの1等級の肉が韓国では2等級しか貰えない。特に豚肉はグレード制と関連し、業界で異なる意見が多い。
畜産市場は肉の部位、等級によって価格が千差万別だ。Deeplantの製品群の価格帯はどうか。
韓国畜産市場の問題の1つが部位別の価格バランスが合わないということだ。豚1匹の肉の値段の大部分はサムギョプサルの値段と見れば良い。サムギョプサルとモクサルを除く他の部位は追加的なものとして扱われる。当社は熟成と調味料を通じて付加価値を高めて合理的に値段をつけようとする努力をしている。
加工工場と協議して良い値段で肉を受け取り、熟成価格だけを加えた。馬場洞(マジャンドン)でのキャリアが30年ある当社のパートナーが肉を完璧に供給してくれている。抗生剤も使っていない肉だ。信頼できる場所から仕入れ、その日作業してすぐに入ってくる。
デパートなどで販売される製品に比べれば安く、作業が多く入るので精肉店に比べるとやや高いという水準だ。今年の私たちの目標は、あまり好まれない部位を、上手く作り、全体的な価格バランスを整えることだ。
Deeplant本社で熟成が進行中の製品 ⓒPlatum
このビジネスにデータがなぜ必要であり、重要なのか。
食べ物を賢く食べられるデータだと考えれば良い。それをベースにした熟成で消費者の選択の幅を広げるのだ。技術がもう少し発展すれば、より消化が良い製品や、最終的には培養肉も可能になるだろう。
その一環としてシルバー世代と乳幼児を対象としたケアフード製品を出す予定だ。一般的な肉の味から、深い味が好きな人まで選べるようにすることが目標だ。普通の肉は冷めたら、硬くなり、美味しくなくなるが、当社の製品はそうならない。その部分は自信がある。
このレベルの味を出せるなら、肉料理店をしなければならないと専門家たちにもアドバイスされた。(笑)もちろん、まだ技術的に完璧ではない。足りない部分を克服しながら新しいことに取り組んでいる。
アイデアがあったからといって、すぐに実現できる事業ではない。装備も揃え、肉も調達しなければならない。
政府の創業支援の恩恵を受けた。中年の予備創業パッケージとなり、アイデア検証をすることができた。熟成装備を作り、研究論文などに記載された方式と我々が考えた方式を均等にテストした。
加工農場をしている知り合いがおり、装備を積んで済州(チェジュ)島まで行った。アイデア検証が終わった後、再挑戦創業パッケージに選定され、工場施設を備え、消費者に販売することが可能になった。この事業にはスペースが必要である。現在1.8トンが倉庫にあるが、店舗一つで使い切る。そのため、今年拡張を計画している。
タンパク質から味を引き出す製品を売っている。根本的な質問だが、熟成肉は健康にも良いのか。
私たちが知る一般的な肉の味は脂肪から出てくる。サシというのも脂肪の層のことを言う。しかし、健康面では脂肪よりはタンパク質が良い。脂肪はたくさん食べるほど大腸がんの発生率が高くなる。
タンパク質を熟成をするとアミノ酸が多くなりコクが出る。消費者テストの結果を見ると、タンパク質熟成肉はたくさん食べても胃がもたれず、負担がない。だからといって、熟成した肉こそが美味しいのだと主張するわけではない。味は個人の好みだ。
Deeplant本社内部の前景ⓒPlatum
Deeplantの特許技術が適用された熟成装置 ⓒPlatum
本社に特許を取り入れた装備がある。どんな特許だろうか。
水圧と超音波温度の調節をする熟成装備だ。熟成方法を変化をさせた次のモデルを準備中である。
熟成しても肉は他の製品に比べて流通期間が短い。需要予測はどのようにするのか。
現在までの事前調査に基づく勘だ。地域の精肉店を全て回りながら、インタビューを行い、売上などの現況を把握した。それを知ってこそ予測ができるためだ。
オンラインでも販売をしているが、現在の問題はコールドチェーンだ。発泡スチロールボックスにアイスパックをたくさん入れて送っても温度変化はある。熟成製品は、温度変化がひどいと腐敗する可能性があるため、慎重である。
冬にはリスクが少ないが夏はまだ経験していないため、保守的にアプローチしている。これを克服するには、パッキング(包装)とコールドチェーンを解決しなければならず、追加費用がかかる。1度に多くの注文が入ってくることも品質管理の面では良い現象ではない。予約制などを悩んでいる。
リスクを減らすために現在は地域を基盤に運営し、4時間以内の配達を目指している。オフラインストアを開いた最大の理由の1つも配達である。
しかし、どんぶり勘定ではなく、配達システムを開発、リアルタイムでモニタリングできるようにしている。車両用センサーも導入し、消費者に自分が注文した肉が何度で来るのかモバイルで知らせている。
製品がたくさん売れるにはオンラインを無視することはできないだろう。
私たちに残る課題の1つだ。熟成時間が必要なためにオンラインで多く注文されると、物量の限界がある。予約制などである程度待つのは許容されるだろうが、長く待たせるのは消費者の立場としては良い経験ではないだろう。何が効率的なのかを悩んで慎重にアプローチしている。
口コミで広めるやり方が良いと思う。当社製品に接した顧客1人が30人集めてきたケースもある。肉を買う時には当社に行け、と言うというケースも多い。現在は最小限に広報し、傾向を見ている。もう少し経験が必要な部分だ。
フランチャイズにしても良いと思う。
考えはしている。2号店は自分にやらせてほしいという人もいる。(笑)実のところ、決心さえすれば、増やすのはすぐにできると思う。スターバックスコーヒーのように肉の味を分けることができるだろう。
しかし、製品とサービス品質を均等に提供しようとすると、やることが多い。製品の説明もしなければならず、熟成も自分でやらなければならないためだ。悩んでいる。
今事業を始めたばかりだ。感想としては、どうだろう。
新しい方法を作っていく過程が楽しく、期待が膨らむ、やはり最も大きな力になるのは消費者の反応だ。1度購入した人々の1ヶ月後の再購入率は80%に近い。
私たちが考えたことは間違っていなかったということを感じるほど、気分のよいことはない。消費者が経験値が低くならないように務めている。そして畜産物市場に良い影響を及ぼすことを期待している。
Deeplantチームが店頭でポーズをとっている様子。
写真:キム・チョルボムDeeplant代表ⓒPlatum
Platum is a media service that specializes in startups, and its motto is "Startup's story platform".
関連記事
-
プラットフォーム規制法、イノベーションへの障害か?スタートアップのジレンマ
#AI -
なぜ韓国の保険業界のデジタル化が遅れたのか?
#DX -
【#韓国VCインタビュー】日本と韓国が一つの経済圏として重要な市場になる|Kakaoinvestment チームリーダー チェ・ヒョチャン
#AI #B2B -
今月の韓国MZニュース|2024年10月
#MZ世代 #ファッションテック #ライフスタイル #食品 #エンターテインメント -
【ちょい事情通の記者】 FINIT、株を適時に売買する方法
#ちょい事情通の記者 #フィンテック #金融 #資金調達 #スタートアップ -
【そのとき投資】Tesser、患者の切実さが生んだイノベーション
#ちょい事情通の記者 #医療 #ヘルスケア #スタートアップ #資金調達