スタートアップは可能性から始まる|【チャン・ヨンジェのスタートアップライフストーリー】
スタートアップは可能性から始まる
4人で構成された野球チームが新設された。チーム名は「4人球団」。ずば抜けた実力を備えた選手たちだが、各自散らばって現存するチームの選手として生活するよりは、4人で意気投合して最高に理想的なチームを作ってみようという価値観で、リーグに好奇心を持ち挑戦状を出した。
しかし、いくら実力が抜きん出ていても4人で野球はできない。特に投手、捕手、内野手、外野手でどうにか構成された守備では、悽絶な限界を見せた。ボールが飛んでくるたび、広い球場を2人の野手が飛び回るには力不足だった。
何度か試合に出たが最終的に体力が底を突き、さらに負傷者も出始める。これ以上このやり方を続ければ事故が起きかねないと判断した時、新しい妙案が浮かぶ。守備でボールを全部捕まえようとあちこち飛び回るのではなく、内野と外野の一塁側に飛んでくるボールのみをキャッチし、他のボールは全て諦める。投手も、なるべく打者が一塁方向にのみ打つよう誘導する作戦をとった。選択と集中を取ったのだ。
幸い、このような戦略のおかげで無残な完敗は免れるようになった。そしてリーグを進めるうちに経験が積み重なり、新しい事に気がつく。私たちのチームの目的は試合で勝つのではなく、今後チームが成長して9人になれば、どのプロチームと試合をしても無敵である事を証明するほうが「4人球団」にはもっと意味があるのではないかという気づきだ。
「勝利よりは私たちの可能性を見せよう」という価値観の下で新しい戦略をとることになる。相手チームの特定タイプの打者には決して進塁を許さない守備や、三振になろうが長打だけで勝負するなど、たとえチームが負けても「4人球団」だけの明確な長所を観客に印象付けようという戦略だ。
新しい価値を探すための挑戦・冒険
この風変わりな戦略に観客が先に反応し始めた。負けるにしても独特な負け方をするチームに拍手を送り、試合への興味度も高いという評価を受け始めた。サイン球団はリーグを通して1勝も収められなかったが、観衆はこのチームの長所を理解することになり、彼らの価値に共感するに至った。ファンも次第に増えた。
その後、このチームのスポンサーに企業が続々と名乗りを上げて資金を支援することになる。同チームは資金をもとに、4人球団から5人球団に充員し、新たな価値観を作っている。まだ9人の完璧なチームを構成するほどではないが、まれに試合にも勝つなどして、少しずつ成長中だ。
4人球団というのは筆者が2年前に起業したスタートアップ「DAIM RESEARCH(ダイムリサーチ)」の起業奮闘記を比喩的に表現したストーリーだ。DAIM RESEARCHはKAIST研究所の企業である。
第2のMarket Kurly・Woowa Brothersを夢見る
4人の選手から成る野球チームを作るなんて常識的にありえないスタートだが、こういった型破りなビジネスアイテムや人材で、まずは始めてみるのがスタートアップだ。流通産業の経験が全くないキム・スラ代表が生鮮食品をネット注文したら、配送してくれるMarket Kurly(マーケット・カーリー)を起業した時、他の流通企業がどれほど困惑しただろうか?
ほとんどの野球団はチームの勝利という目標一つに価値が集中している。しかし、4人球団は新しい価値を求めて挑戦する冒険を敢行した。市場の新しい価値を探し、その価値を社会と市場で認められて成長するのがスタートアップだ。
中華料理店やチキン屋など、近所の飲食店でデリバリーという仕事がビジネスになると誰が想像しただろうか?デリバリー業を体系化し、デリバリーを通じて小規模事業者をデジタル革新へと導いたのがWoowa Brothers(配達の民族)のプラットフォームだ。デリバリーに新しい価値を付与したのだ。
一般の創業企業とスタートアップの違いはベンチャー投資にある。大型の冒険資本による急成長、すなわち「スケールアップ」することがスタートアップの核心だ。4人球団も目の前の勝利、すなわち売上や営業利益よりは成長可能性を見せ投資を誘致し、成長の足場を作った。創業10年ぶりに流通企業1位として急成長したcoupang(クーパン)が代表的な例だ。
韓国のスタートアップは今や国家産業の一翼を担っている。スタートアップに対する関心と認識が大きく変わってはいるが、まだ一般人には馴染みがない。特に首都圏を離れればスタートアップは縁遠い話だ。政府政策やスタートアップ育成の旗印を掲げた学校でさえ、まだスタートアップの本質を理解していない支援策でいっぱいだ。
本コラムには外部の視線ではなく、直接スタートアップを起業し、いろんな苦労の経験がある筆者のストーリーを読者に伝えたいという思いがある。起業者たちとスタートアップ企業に携わる人、スタートアップに投資を希望する企業、政策に悩む政府、またスタートアップ教育に、少しでも役に立てれば幸いだ。
KAIST産業・システム工学科教授 チャン・ヨンジェ
KEDGlobalは、読者たちが関心を持ちながらも接近できなかった韓国企業、資本市場、マクロ経済に関するニュースと高度な情報を海外読者の目線に合わせて伝えるプレミアムな多言語経済メディアです。 韓国のビジネスコミュニティと世界をつなぐグローバルメディアプラットフォームを目指します。
関連記事
-
プラットフォーム規制法、イノベーションへの障害か?スタートアップのジレンマ
#AI -
なぜ韓国の保険業界のデジタル化が遅れたのか?
#DX -
【#韓国VCインタビュー】日本と韓国が一つの経済圏として重要な市場になる|Kakaoinvestment チームリーダー チェ・ヒョチャン
#AI #B2B -
今月の韓国MZニュース|2024年10月
#MZ世代 #ファッションテック #ライフスタイル #食品 #エンターテインメント -
【ちょい事情通の記者】 FINIT、株を適時に売買する方法
#ちょい事情通の記者 #フィンテック #金融 #資金調達 #スタートアップ -
【そのとき投資】Tesser、患者の切実さが生んだイノベーション
#ちょい事情通の記者 #医療 #ヘルスケア #スタートアップ #資金調達